「木曽川の水力発電所」視察

 6月22日~23日に、ETT(フォーラム・エネルギーを考える)のメンバーの皆さんと一緒に、木曽福島から名古屋まで木曽川沿いに、福沢桃介と川上貞奴が大正時代に築いた、7つの水力発電所を見学した。福沢桃介は福沢諭吉の女婿で、株取引で財を成し実業家として電力事業に取り組んだ。木曽川に着目した桃介は、大正8年竣工の賤母発電所を皮切りに、大正15年までに7つの水力発電所を木曽川に建設、当時電力が不足していた大阪への長距離送電線も完成させ、「電力王」と呼ばれた。その桃介の事業パートナーとして活躍したのが、川上貞奴だった。日本初の女優として知られる、あのマダム貞奴だ。
 この視察旅行は、ETTの代表でもある作家の神津カンナさんが、今年出版した小説『水燃えて火 ~山師と女優の電力革命~』(中央公論新社)の舞台を辿る旅だった。この小説は「電気新聞」に1年間にわたって連載された『風のゆくえ』を改題した作品。作者のカンナさんご自身と、新聞連載中に挿し絵を描かれた日本画家の川﨑麻児さんが、レクチャラーとして同行するという贅沢な旅だ。
 初日にまず木曽川の上流から、桃介が大正時代に建設し今もなお現役の、桃山、須原、大桑、読書、賤母、落合、大井、7つの水力発電所を一気に巡った(一部は車窓から外観のみの見学)。それぞれに異なる建築様式、装飾、意匠を凝らしたユニークな発電所ばかりだ。特にアールデコ調デザインの桃山、須原、読書の発電所が印象に残った。最後に訪れた大井発電所(大正13年竣工)は、日本初のダム式発電所で、そのダム湖が恵那峡だ。洪水吐(こうずいばき)と呼ぶ放水門扉(ゲート)が21基も並ぶ、その堰堤(ダム堤防)は壮観の一語に尽きる。堰堤の天端には六角形のシェードを持つ外灯が並び、大正浪漫を感じさせてくれる。7つのうち4つの発電所が、近代化産業遺産に認定されており、読書発電所はその本館、水槽・水圧鉄管、水路橋が、国の重要文化財(近代化遺産)になっている。

21基の洪水吐が並ぶ大井発電所のダム堰堤    堰堤の天端に並ぶ大正浪漫の外灯の列 
東雲大橋から望む大井発電所のダム湖・恵那峡と堰堤の景観
大正11年竣工の須原発電所本館とフランシス水車 国の重要文化財になっている読書発電所の水圧鉄管
賤母発電所の鉄管上部にある「利穿金石功済天下」の
文字を刻んだ碑
落合発電所の本館と巨大な調圧水槽


 旅の2日目は、貞奴、桃介ゆかりの建築を見て回った(現在は福沢桃介記念館になっている長野県南木曽町の別荘は初日に見学)。貞照寺(岐阜各務原市)は、貞奴が初恋の相手でもあった桃介のために建立(昭和8年)した寺で、現在は諸芸上達芸能の寺として知られている。境内には立派な仁王門、本堂、鐘楼、貞奴の墓所、貞奴と川上音二郎関連の品々を展示する縁起館がある。その貞照寺に参拝するために、門前に建設した別荘の敷地が「萬松園」。敷地面積1,500坪の敷地に、部屋数25室の和洋折衷の豪華別荘が建つ。日本間、洋間、サンルーム全25室の電灯と天井がすべて異なる意匠という、貞奴のこだわりが横溢している。最後に訪れたのが、桃介と貞奴がビジネス用の迎賓館として使った別邸の「二葉館」(名古屋市東区)。大広間と食事室のステンドグラスが素晴らしい洋館だが、居住スペースは日本家屋になっていた。夜になると窓々から電灯の光が溢れる斬新さと豪華さから、二葉御殿と呼ばれたという。貞奴と桃介が建てた別荘・別邸は、大正、昭和初期の電化モデルハウスでもある。
 この旅で、水力発電に情熱を傾注した桃介と貞奴の稀有な偉業を、目の当たりにすることができた。彼らが建設した木曽川の水力発電所は今も現役で稼働しており、関西電力が管理している。水力発電所もさることながら、別荘や寺に投じた莫大な財貨にも感服というか驚愕させられた旅でもあった。

貞奴が私財を投じて建立した貞照寺の本堂    貞奴のこだわりが横溢する贅をつくした別荘「萬松園」 
     
 「萬松園」別荘の一角、菱子組みのサンルーム   「萬松園」別荘の仏間の天井画と電灯の笠 
     
名古屋の桃介、貞奴の迎賓館でもあった別邸「二葉館」  「二葉館」大広間のステンドグラス