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会報や当ホームページに掲載した記事の中からおもなものを抜粋して掲載しています。
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2003年に発足したキューバ・グループは、初代世話人の故・村井肇氏の遺志を受け継いで活動を続けてきましたが、4年目にして初めて現地訪問旅行を実施することができました。 在日キューバ大使館および観光公社クバナカンに全面的にご協力いただき、5月8日から16日まで、石川秀弘団長ほか10名が渡航、首都ハバナで開催中の観光フェアに参加するとともに、世界遺産のハバナ旧市街をはじめ、同国一のリゾート地バラデロや、エコロジーの町として世界が注目するラス・テラサスなどを回りました。 なお、同国に対する感謝の意を込めて、昨年のハリケーン被害の見舞金を、日本大使館を通じて同国外務省へ手渡しました。 帰国後、メンバー数名がオルランド・エルナンデス大使を訪ね、旅行の報告をするとともに、今後も同様の訪問旅行を実施し、日キ両国の友好親善のために力を尽くすことを確認しあいました。以下は参加者の訪問レポートです。
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![]() JTWO創立25周年記念座談会 観光が21世紀の真の豊かさを育てる 〈出席者〉 村田吉隆◆衆議院議員・自民党観光問題特別委員会 幹事長(当時) 岡本伸之◆立教大学 観光学部長(当時) 斎藤茂太◆日本旅行作家協会会長 〈司会〉 中村浩美◆日本旅行作家協会事務局長(当時/現在は専務理事)
産業としての観光を考える 中村 本日はお忙しいところをありがとうございます。今回の座談会のきっかけは、村田議員の『自由新報』でのインタビューを拝見しまして、「観光は21世紀の基幹産業となるであろう」というのに非常に触発された部分がございます。そこで、まず最初に村田議員から、観光というものを日本のなかでどのように位置づけていらっしゃるのかをお話しいただけますでしょうか。 村田 はいわかりました。日本における観光を考えたときに簡単にいって3つあります。まず1つは、日本は豊かになったといわれるけれど、モノについてはある程度満足するところまでいっただろうと。そこで次は、やはり自分の好奇心を、あるいは体験を積み重ねていって楽しみを満足させる、こういった観光とか旅行とかの面ではまだまだ未開発のフロンティアが残っているのではないか―これが我々の最大のテーマにならないはずはないと取り組んだわけです。それからもう1つ。私も含めて地方からの議員にとっては、観光は地域開発になるのです。地方自治体がみんな「観光、観光!」といっていますからね。そういうこともありました。そして最後の1つは、私も触発されたんですが、ドイツ観光協会の東京事務所の方をお呼びしてお話をうかがったら、「ドイツはメーカーの国と思っておられるかもしれませんが、ドイツにとりまして観光産業は第2の基幹産業です」と言われましてね。ドイツにしてそうなんだと。やはり相互理解で、日本をもっとよく知ってもらうために外国人に来てもらう―これが政治のテーマでも必要だと、21世紀にむけて我々が取り組んでいかなければいけないと思ったわけです。 中村 ドイツは、たとえばメルヘン街道に始まるプロモーションというのは完全に仕掛けたものなんですね。あれは意図して連邦なり地方なりが世界に向けて発信した。いってみれば自分たちの手で観光ルートをつくって、それがとくに日本人にうけたわけです。一方、アメリカでは、私の知ってる限りでも70年代ぐらいから旅行は重要なインダストリーであると、商務省もそう考えておりました。とくにリージョナルな都市であるとか州であるとか地方というのが、盛んに日本にもミッションを送ってきて、完全にその地域の基幹産業としてツーリズムをとらえるというプロモーションを、ずっとこの20何年やってきているわけで、その成果は明らかに出ているんですよね。そういうことを考えますと、立教大学の岡本先生は、日本で初めての観光学部というのを担当されていますが、産業としての観光、いわゆるコンベンション・アンド・ツーリズムというものをはどうとらえていらっしゃいますか。 岡本 観光を産業というとらえ方をしていいのかな、という感じがすこしありますね。そのことをご理解いただくために、いまの村田先生のお話に関連していくつかお話しさせていただきます。まず最初に村田先生のような方が、観光に対して理解を示していただけるということを大変うれしく思っております。いま3点についておっしゃいましたが、いちばん最初のところから少し触れさせていただきますと、現在、日本人の国内観光、宿泊を伴う観光旅行の平均宿泊数というのが1.6泊なんですね。1泊2日という方が5割以上。これで、なんで豊かなのか、世界第2の経済大国か、笑わせるなという感じですね。これをなんとかしていただきたい。それから、2番目に地域開発、地場産業というお話がありましたが、WTOのデータによれば、移民局の入国審査など、そういう方を含めて、いまや世界で雇用されている人々の10人に1人は何らかのかたちで観光に関わっているという報告がなされています。つまり世界で6億を超える人が移動に関連している。これは文字通り産業としてとらえれば大産業だと思います。それから3番目。今日、データをお持ちしたんですけれども、日本旅行作家協会ができましたのは1973年だということで、4半世紀の変化というのを振り返ってみたいんですが、73年当時、日本人の海外旅行、アウトバウンドというのは228万9千人だったんです。ところが平成9年は1680万3千人になった。7.3三倍に伸びたんです。私はこの7.3倍という驚異的な伸びに、この協会が果たした役割というのは非常に大きいと思います。日本人はみんな『兼高かおる世界の旅』を見て、胸を踊らせて旅行したんだと思うんです。ところが目を外人旅行、インバウンドのほうに転じますと、73年当時が78万5千人だった。ところが平成9年は421万8千人。5.4倍にしか伸びていないんですね。そしてもっと問題なのは、倍数もさることながら、73年当時は入りと出の比率が1対3だったのが、平成9年には1対4になってしまった。ですから乖離というのは広がっているわけです。ところで、入りの421万人という数字がどういう数字かというと、96年のデータで世界で32番目です。1番はご承知のようにフランス。フランスというのは6千万人を切る人口で、なんと6千万人を超える外国人旅行者を迎え入れている。フランス人で出ていくのは1800万人ですから、だいたい日本人と同じぐらいですが、入ってくるほうが桁違いですね。この32番目の421万人というのは私は大問題だと思っています。32番目なんていうのは、もう順位がないのと同じですね。ということは目線を世界に移せば、日本なんてまったく論外の国です。行ってみようなどという気がこれっぽっちもおこらない国ですね。それで日本の安全保障というのは保てるのか・・・。つまり、世界から見れば、日本人というのは経済大国といばっているけれど、なんだかよくわからん薄気味悪い存在で、行ってみたいなんてだれも思わない国。これで21世紀は大丈夫か非常に心配です。それからもう1つは、日本の人口は2009年をピークに、そこから先は少なくなっていきますね。日本はへたするとゴーストタウンになる。交流人口を膨らませて、場合によっては移民を受け入れるぐらいの気持ちがなかったら、この島国は衰退の一途だと思うのです。
インバウンドとアウトバウンド 中村 斎藤会長、たしかにインバウンドの問題というのは大きいと思うのですが。 斎藤 たしかに私もそう思いますね。いま、外へ出るノウハウはやたらに情報過多なぐらいあるんだけれど、外人を呼び寄せるということはほとんど議論されていないですからね。クイーンエリザベス号のような大きな船が日本にときどき来ますね。しかし、ワールドクルーズなどのルートを見ると、日本はほんとうに除外視されていて、たまに来るだけなんですね。今度、「ロイヤルバイキングサン」という私もいい船だと思って推奨している船があるんですが、これが今年日本に来ます。おそらく桜を見にくるのでしょうね。4月なんですよ、入港が。でも東京の晴海にたった1泊。少なくとも船を見ただけでも日本は除外視されているのがわかります。ずいぶんいろんな船がワールドクルーズをやってますが、日本に立ち寄るというのはほんとうに数えるほどしかありませんね。 中村 外客誘致法という法律はあるんですよね。 村田 あるんです(笑)。でも運輸省のほうも実際、ほんとうに力を出していないのです。旅館をどうやって外人向けにするかという、国際観光旅館みたいな思想がまだ残ってるものですから、チャチなんですよ。 中村 岡本先生ご指摘のインバウンドの問題というのは、皆さん共通した点だと思うんですが、やはりこの乖離しているインバウンドとアウトバウンドを、なんとかバランスよくさせることを考えると、これは国家として取り組むべきところがまずあって、村田先生がおっしゃるように政治のテーマでもあると思うんですね。それとともに気になるのは、いま旅館の話が出ましたけれども、日本のいわゆる観光関連産業の皆さんが、どれだけ意識を持っているのか。このあたりは岡本先生がホスピタリティの専門家でいらっしゃいますが、外国の方を迎えるホスピタリティとはいったいなんなのかということを、日本人一人ひとりや観光関連産業も含めて、突き詰めて考えているのだろうかと思いますね。そうなると外国人どころじゃない、同じ日本人同士でも、それは我々のライフスタイルの問題でもあるけれど、観光関連産業や観光地それ自体の魅力開発というのが、ほんとうになされているんだろうかというところまで感じてしまうのです。 岡本 まったく中村さんのご指摘のとおりでして、ホスピタリティというのを日本人は勘違いしているんですね。「おもてなし」と言いますけれども、木村尚三郎先生によれば、どうも語感が違うと。たとえば、よく旅館の女将のおもてなしという話がありますが、あれは要するに単なる商売です。ホスピタリティというのは相手があっての概念で、その相手というのはなんらかの意味で弱い人なんですね。たとえば旅に出て、日本に来ていろいろなことが分からないと。さっきメルヘン街道の話が出ましたけれども、あそこへ行けば日本語で道案内があります。ところが、私の郷里は山口県の下関ですが、下関から関釜フェリーがあり、車で韓国に行けたり、韓国の人が韓国ナンバーの車で来れるわけですが、下関市内に韓国語の案内標識なんてなにもありません。つまり日本人というのは目線が、こちらサイドにしかないんですよ。「おらが県が」と各県みんな空港を持ちたがる。しかし日本を代表する空港というのはいったいどうなんだといったら、えらいケチな空港です。そうすると世界から相手にしてもらえず、ルートからも外れてしまう。港の問題でいうと、いま世界のコンテナ船というのは6万トン、7万トン級です。これが世界の物流を担っています。ところがその6万トン、7万トン級の船が立ち寄れるところというのは日本では神戸に1か所あるだけ。シンガポールや台湾や韓国などでは着々と用意しています。日本人というのは目線が内向きですから、「日本いい国、住みよい国」と。ところが目線を向こうに移すと、日本は汚いブロック塀で囲んで、自分のところだけいい町と。「おらが家も向こう三軒両隣り合わせて景色のひとつ」というような発想は微塵もない。だから町は汚い。でもそれさえわからないんですよ、観光客の眼差しがないから。イギリスがいかにいい国か、パリがいかに美しい町かということを語る日本人トラベルライターというのはゴマンといます。しかし、パリの人やイギリス人が日本をどう思っているか、ということを語る人はほとんどいない。だからホスピタリティのことをいうのだったら、まずは目線を向こうに移して、外国人が来てなにが困るかを考えて欲しい。実際、いちばん最初に困るのは道案内ですよね。世界に行けばどこだって道案内してくれる場所がある。日本はまったくないです。 それから食事です。英語のメニューさえないですからね。日本はまったくひどい国で、要するによそものを迎え入れようなんていう気は、これっぽちもない国。そんなことをやってるから世界から遅れて、経済もこんな状況。21世紀を見てもなんの希望もない。あとは人口が減って、高齢化して、坂道を下るだけという感じですね。 日本人の旅は休むためのもの 中村 相当きびしいご指摘です(笑)。村田議員は逆に坂道を転げ落ちないようにとお考えのようですけれど。 村田 私は、やはり日本の旅行者がまだ啓発された、いい旅行ができていない、そういう発想がない旅行者だから、受け入れるほうもそんな感じになっていると思いますね。たぶん、日本人の旅行というのは、「休む」というところから出てきたんじゃないですかね。温泉もそうでしょう。だけど、外国人の旅行というか遊び方は積極的に出ていく遊び方じゃないですか。そこのギャップ、変化というのに日本の国はまだついていけない。だからいままでの日本人は、仕事を一生懸命やって、1泊2日ぐらいで気を抜くとか疲れを癒すとか、そんな旅行のしかたが大半なわけです。 中村 1泊2日では疲れに行くようなものなんですけどね(笑)。 村田 積極的に外に出て景色を楽しむとか、歩いて町を見るとか、美術館を見るとか、そういう積極さが日本の旅行者には少ないですね。 中村 インフラやファシリティとかそういう問題もあると思うんですけれど、いまお2人の話に共通しているのは、「日本人の心の問題」というような要素もあるかと思うんです。そちらのほうは斎藤会長が専門でもありますし、心配りとか気配りっていったいなんなのかと・・・。 斎藤 何年か前に京都の柊家に泊まりましたら、外人客が多いんですよ。みんな浴衣着てね、座ってご飯食べてよろこんでいる。しかし、日本式のこれは彼らにとっては大変な苦痛だろうと思うの。やっぱり、自分で旅行してみてね、これはいいところだ、あるいはちょっと具合悪いなと思うのは「生理的な不快感」ですよ。ですからまず生理的な快感を与えることを考えなくてはいけない。以前、ある有名な日本旅館で、西洋式を取り入れたという旅館に泊まったことがあるんですよ。そして部屋のお風呂に入ったの。体を拭こうと思ったら、バスタオルがどこを探してもない。座敷のはるか向こうのほうに手拭いがかかっているの。体、びしょびしょなんですよ。抜き足差し足で、その手拭いを取りにいったおぼえがあるんです。僕は大変な不快感。それは床の間は立派だし、いいんだけど、その宿には2度と泊まりたくない。それからヨーロッパでのこと。化粧室にシャンプーとかいろんなものが置いてありますね。あれ、字が小さすぎて僕の目では見えないんです。眼鏡をかけても見えない。メーカーの名前だけ大きく書いてあって、これはリンスなのかシャンプーなのかオードトワレなのか、さっぱりわからない。こういうので嫌になってしまう。僕はいま佐渡島と仲がいいんですけれど、佐渡汽船をほめているのは非常に字が大きいんですよ。トイレでも何でも、はっきり「便所」って大きく書いてある。これから超高齢社会になって、目の不自由な人が増えるでしょう。そういう生理的なことを考えないといけませんね。 岡本 斎藤会長がおっしゃってることは、基本的に目線をこちらから向こうに移せということなわけですね。そして、さっきのホスピタリティの続きですけど、冒頭に「必ずしも産業にはこだわりません」と申し上げましたが、ホスピタリティの本質というのは、弱い立場の人に対する思いやりなのです。これは本来、慈善なんですね。ボランティアなんです。ですから、私はこれからの観光の担い手はボランティアだと思います。ボランティアガイドとか、自然を保護するボランティアとか、エコツーリズムなどがそうですよね。私は昨年、政治家の方は非常にいいことをしてくださったと思っているのです。それはなにかというと、NPO法というものが成立したんですね。ノン・プロフィット・オーガナイゼーション。これは要するに市民活動団体に法人格を与えて、積極的にやってもらおうということなんですね。私は、NPOやNGOが21世紀に向けて観光の担い手になっていくだろうと考えています。アメリカなどは、あれだけの余暇施設をだれが整備したかというと、そういう同好の士が集まって、NPO、社交クラブというかたちでやっているわけです。ゴルフ場などはほとんどNPOですよ。だから受益者負担で、そういうものをどんどん整備していくという発想なわけです。それからもう1つ。今度は日本の政治家の先生方をきびしく批判したいと思っていますけれど、日本というのは悲しい国だと思うんですね。それは、あの日本の高度経済成長を支えた日本人労働者に対して、有給休暇を与えなかったんですよ。いまだに与えていないです。世界で日本だけです。恥ずかしいですね。ILOの有給休暇条約では3週間取りなさい、そのうちの2週間をまとめ取りしなさいとなっているわけです。これを日本政府は批准できないんですよ。世界の有給休暇先進国は5週間ですよ。3週間の有給休暇条約も批准できないような国というのは、ちょっとないんじゃないかと思うのです。それくらい、日本の政治家や企業の経営者は労働者に対して休みを与えなかった。ですから日本人は旅行できないわけですよ。世界で「旅行」といったら家族旅行に決まっているわけです。ところが親が仕事しているものだから、日本は家族旅行がないんですよ。若い人は若い人だけで旅行、親は会社で慰安旅行。日本の旅行のシーンというのは、世界から見たら異常ですよ。そういう社会の制度的なインフラというものを抜本的に変えていかないと、日本の観光というのは国際的なものにならないと思いますね。
旅行は人間の本能 中村 自民党では観光問題特別委員会を設置されて、まさにいまおっしゃったようなことに取り組んでいかれるわけですね。 村田 おっしゃるとおりです。岡本先生が象徴的に批判されてますが、我々は豊かにはなってない。それはなぜかというと、やはり旅行ができていない。そういう意味で、観光というものができるような世の中にしていく、そのなかでいままでの制度を変えていく、ということなのです。 斎藤 私は心を病む人を扱うのが本職なんです。いろんなケースがあるけれども、総じて病気が悪くなると、いちばん最初に出てくるのが、みんなと食事をともにしなくなるんです。これを僕は「共食」と言っています。人類だけなんですよね、共食動物は。わずかにチンパンジーが少しそういう傾向があるだけ。それからもう1つ、移動しなくなる。家の中に閉じこもってしまう。 この「共食をしなくなる」、「家の中に閉じこもる」というのが、だいたい心の病のいちばん最初に出てくる症状なんです。それで治療が進みまして、だんだんよくなってくると、食堂へ出てきて、ほかの方と一緒に食事をするようになる。しかし、顔はまだしかめっ面。ところがもうちょっとよくなると、談笑するようになる。これは人間に戻った証拠。それから「旅行に行っていいですか」と言い出します。「イタリアへ行きたいんですけれど?」「ああ、行ってらっしゃい、行ってらっしゃい」と。それで僕がお薬を持たせてやると、たいがい残してきますよ。旅行中、薬を飲むの忘れちゃいましたとか、忙しくて飲めなかったとかいろいろあるけれども。つまり食事を共にする、それから旅に出たいという気持ち。これはね、正常に戻った証拠なんです。旅行というのは人間の本能なんですよ。 岡本 いまの両先生のお話に関連して2つ申し上げたいんですけど、1つは「ホリディ」という言葉がありますけれど、語源を調べたことはありませんが、おそらくホールだとかホリストに関係があると思います。要するに旅行に出かけると、全部自分でやらなければいけないから、人間が全体性を取り戻す契機になるんだろうと思うのです。だから旅をすることが重要で、ごろごろと寝たきりなんていうのは悲惨の極み。人間というのはそれこそ斎藤先生がおっしゃったように旅をすることが本能なんであって、旅行に出れば人間が人間性を取り戻すんだということですね。それから「バカンス」というのがありますけど、これはバケーション、ベイカンというのは「空にする」ということですね。だからまったく身も心も空にするということが本質なんです。なぜそれが大事かというと、空にして初めて大事なことが見えてくる。昔のように日本人みんながブルーカラーでしたら、5時にベルが鳴ったら、あとは野球かなんかして気晴らしになったんですけれど、いまはみんなホワイトカラーですから、週休2日なんていったって、仕事から解放されません。だから1泊2日とか2泊3日ではだめなんです。1週間、2週間ドーンと休んで完全に空にすると、「このままじゃどうも日本いかんぞ」というような知恵もわいてくる。ところがいまみたいな生活してたら、21世紀を生き抜く知恵もわかないですよ。 村田 外国旅行だと「1週間や10日ぐらい休むか」、そこまで来たんですよ。周りのみんなも認めるんです。国内旅行でもせめて1週間や10日休めるよう社会の認識がなったときに、少しずつ変わってくるんだろうと思いますね。しかし、まだ日本人が「自分たちはもっと一生懸命働かないといけない」と思ってるわけで、外に遊びにいくということを、大事な生活の要素だと認め合うところまで来ていないんですよ。だから受け入れ態勢も、それなりのものしかないということでしょ うね。 ノー・アクティビティこそが旅 中村 岡本先生の観光学部に学んでいらっしゃる方は、具体的な観光に関する目標を持って学んでいると思うのですが、一般の我々が「旅に出る」ということの本質を、自分のものにしなければと感じるんですね。先ほどからアウトバウンドは伸びもすごい。ところが日本人の海外旅行のしかたを見ると、ドイツやイギリスの人が外国旅行をするのとまったく内容が違うわけですよ。とにかく海外旅行が珍しくて駆けずり回る旅行も1回目はしょうがないと思います。でも、リピーターになったら、もうちょっと自分の旅を考えてほしいということを私は言っていて、最近は「日本人よ、旅行に行って何もしない勇気を持て」というのを、ひとつのメッセージにして、いろんなところで言ったり書いたりしているのですけれど。 斎藤 世界一周の船なんか、ロングクルーズでしょう。ところどころで、お客さんを休ませるために、「ノー・アクティビティ・デイ」といって何もしない日がある。そうしたら、「今日はノー・アクティビティ・デイです。どうしたらいいんでしょう」って聞いてくる(笑)。これ、日本人だけ。 中村 そうですね。まさにノー・アクティビティというのが旅じゃないかと思うのです。そこのところがまだ日本人の場合は「何かしなきゃ」が先行して、日本の観光地も「ハードを造って客寄せをしなければ」というようなところへ行ってしまう。たとえば歴史とか伝統芸能であるとか、そういうものを大事にするだけで実は人は来るんだというようなことや、自然を大事にする、自分たちの町を愛する人たちの姿が町を見ただけでわかるならば、心の安らぎを求めて旅人は来るはずなんですよね。でもそういう努力の方向ではなくて、なにかアクティビティのための施設を造らなければ客は来ないという。だから博覧会をやりたがるのもそうですし、テーマパークをやたらと造りたがるのもそうだと思います。そのへんが、たぶん共通した問題としてあって、それが一人ひとりの旅のしかたにも、それを迎え入れようとする観光産業にも、あるいはそれを地域起こしの起爆剤にしたいという自治体などにも根のところにあるのではないかと感じるのです。 岡本 住んでいい町というのは、訪ねていい町でない場合があるんですよ。豊かさ指標を見ますと、新国民生活指標を経企庁がやっていますが、住んでいい町というのは北陸です。トップは福井県、富山県。ところが、そういう町が訪ねていい町かというと、全然訪ねていい町じゃないんですよ。じゃあどうしたらいいかというと、これは非常に簡単であって、「世界の常識」を国内に入れればいいのです。ですから、まず駅を降りたら案内標識がありますかと。それからいろんなところへ行きたいですね。そうすると1枚の切符で電車だろうが地下鉄だろうがバスだろうが乗れるというのが世界の常識ですよ。1枚の切符でお城だろうが美術館だろうが博物館だろうが旅行者であればどこでも行ける。これも、世界の常識です。それから食事がしたい。だったら3千円なら3千円のミールクーポンで地元の名物をチョイスできる。これも世界の常識。そういう世界の常識を、旅行者の目線に立って「おらが町によそから客人が来たときに、どういう気持ちを持つか」と、ちょっと考えればいいことなのに、そういうことができない。仙台なんかへ行ったって、駅の改札を出ても案内所ひとつないです。物売りばっかりですよ。ですからおそらく仙台の人は、「とにかく仙台、いい町」と。しかし旅行者にとってはまったくいい町じゃないですね。 斎藤 中国でも、漢字はもちろんだけども、必ず横文字を添えてますでしょ。あれは国が広くて発音がみんな違うせいもあるかもしれないけれど、アルファベットは必ず書いていますね。あれは感心ですね。 岡本 僕が申し上げたことを常識としてやってるところ、どんどん出てきています。たとえば滋賀県の長浜では1枚の切符で近在のところは全部回れるとか、松江でも1枚の切符で乗り降り自由で観光客のためにバスが走っています。小樽では、3千円、5千円で小樽市内のイカソーメンとか、そういうものをチョイスできるとか、どんどんやっている。やっていないところに限って、行政に「おまえらキャラバンやれ」とか、つまらないこと言っているわけですよ。自分たちは30年前と同じ商品を売ってるわけです。世の中で30年前と同じ商品で売れるようなビジネスなんてありませんよ。 中村 そうですね(笑)。 斎藤 たとえばスイスは、国内どこでも自由にバスや列車に1枚のチケットで乗れるじゃないですか。あれはとてもいいですね。 村田 日本では情報を提供する1つの組織として観光協会というのがありますが、それがあまり機能していないんですね。フランスのアイ・オフィス、あれはどこへ行ってもあるし、紹介のパンフレットなんかもすごくわかりやすくなっていて、うまくできていると思いますね。日本の場合はお金がないということもあります。ご飯食べたりすると7千円以上になると払う特別地方消費税というのがありましたね。あれが財源だったんですが、今年から廃止されます。だから観光協会は細々とやってきたのが財源がなくなり、僕らは本格的にどうしようかと頭をいためています。 岡本 新たな財源についてはですね、これも世界の常識ですけど、要するに観光客は受益者負担で、美しい自然を楽しんだらお金を払うのが常識なんですよ。世の中、ただの昼飯なんてあるわけないんだから、お金を払うというのは世界の常識ですよ。日本人ぐらいですよ、一銭も払わないで美しい自然をよこせというのは。 斎藤 中国みたいな国でも、公園なんかでは必ずお金を取りますからね。 岡本 これはさっきのNPOの存在というのが大きいのです。ボランティアといいますと、無償というふうに考えるでしょうが、そんなこと考える必要ないんですよ。非営利法人でお金を出したらいいんですよ。世界でNPOやNGOというのは、大変な雇用をしているわけですからね。村田先生がおっしゃったように、観光協会のやってることは、とにかくまず白紙にして考え直さないとだめですよ。 当協会もNPOの資格がある 中村 NPOの話が出ましたが、我々日本旅行作家協会というのも、NPOの1つとしての資格があるのではないかと最近考えているんですけれども。 岡本 もちろんあります。 中村 当協会は、旅という共通項があるだけでほんとにゆるやかな組織で、いろんな活動をしている方が集まっている会なんですけれども、おふたりのお話をうかがっていて、これからの日本にとって非常に大事なもの、ツーリズムでいえば、我々の協会のような存在というものが、ひょっとするとキーになってくるのではないかと思います。そういうものが社会のいろいろな分野で出てくると、日本の21世紀の社会づくりが可能になってくるのかな、と感じています。 村田 皆さん方の影響力はすごく大きいですから、日本の旅行のあり方とか、インフラから含めて、こうしてもらいたいという要望を大いに聞かせてもらいたいですね。みんなどうしたらよいかわからなくて苦しんでいるんですよ、旅館なんか。ですからそういう意味で、指摘というかアドバイスや提案をぜひお願いします。 中村 我々も実は自治体に対していろいろアドバイスを申し上げたり、実際に現地へ行って調査をしたり、業界の方とお話ししたりという機会はいくつかのところでは持っているんです。最近の例でいうと、高知県もそうです。実は私たちが視察をしたときに申し上げたことがきっかけだったんですが、ホスピタリティ事業というものを98年度は予算をつけて行っています。我々でホスピタリティ事業の調査もやりましたし、経営者対象の講演会などもさせていただきました。 岡本 73年にこの協会ができたときの設立の言葉に「商業主義に毒された」という表現がありますが、協会には商業主義ではない文化交流の側面に光を当ててほしいという感じがしますね。それと、普段着の観光といいましょうか、日本人の観光は食い気だけかというような感じがします。日本のホテルなどでも出してくるのはコレステロールのかたまりみたいな体に悪いものばかりですよ(笑)。もう少し常識のある、肩の力を抜いた普段着の日常食のなかで交流しないともたないですよ。それから最後に、どうも日本人は「観光、観光」と言っているものですから、見たらいい、見るだけという感じがしますね。これは残念ですね。だから見るだけじゃないんだっていうところへ、どんどん旅のスタイルを大いにふくらませいく。そういう面で、ぜひ協会がリーダーシップをとっていただけたらと思います。 村田 本日は岡本先生からだいぶご指摘を受けましたのでね(笑)。とにかく、自分たちが楽しい旅行をするためには、やらなければいけないことがいっぱいあると思いますね。そういう意味で、もっと日本も観光を大切にしなければいけない。観光というか、旅行というか、暇の過ごし方というか、興味の開拓のしかたというのかよくわかりませんが、楽しい旅行をつくるために政治レベルで障害をつくっているならば、消滅させなければいけないですね。でもいろんな人がいろんなことをいうものですから、なかなかね。皆さん方にもぜひともご指摘をいただきたいと思います。 中村 私どもとしましても、立教大学観光学部、あるいは自民党観光問題特別委員会に大いに期待しておりますので、よろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。 |
旅行作家が選んだ20世紀の名列車 日本旅行作家協会のサブグループのひとつ鉄道研究会では、『旅行作家が選んだ20世紀の名列車』というアンケートを実施、集計をすすめてきましたが、このほど、20世紀最後の鉄道の日(2000年10月14日)を目前にして、その集計結果がまとまりました。 鉄道の発展にとって、20世紀というこの100年は輝かしい進化の世紀でした。旅行・移動の手段としての重要性は、他の交通機関にまさるとも劣らず、鉄道は黙々とその使命を果たしてきました。今、この節目の年に、鉄道の歴史を振り返り、旅の想い出を作ってくれた、あるいは人生のワンシーンを演出してくれた、忘れがたい列車をリスト・アップして、後世にその名を残すことは、意義のあることだと考えます。 私たち旅行作家が、それぞれの想いを込めて選んだこのランキング結果を、記念すべき鉄道の日に、皆様のお力で広くお伝えいただきたく、ここにお知らせする次第です。 ◆日本旅行作家協会の鉄道研究会に所属する会員を中心に有志にアンケートを実施。各自にベスト3を選んでいただきました。個人の持ち点を10点とし、1〜3位の列車に持ち点を自由に割り振ってもらいました。1位=5点、2位=3点、3位=2点とした人もいれば、1位=10点であとは無しとした人もいました。その得点を集計、順位をつけました。「20世紀の」ということなのでベスト20としました。 ◆なお、このアンケートの詳細などのお問い合わせは下記までお願いいたします。 日本旅行作家協会 鉄道研究会 世話人 野田 隆(理事) |
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