ロバのクサツネと歩く日本

高田晃太郎著 河出書房新社 2025年7月刊

『ロバのスーコと旅をする』で、第9回斎藤茂太賞の選考委員特別賞を受賞した著者の第二弾。今度の舞台は日本。栃木県那須高原の南ケ丘牧場で50万円の大枚をはたいてロバを購入し、福島を経て新潟に入り、進路を西に変えて長野、敦賀、豊岡、長門峡、下関ときて九州に渡る。すべて徒歩とはいえ、隧道を通過するときは軽トラに乗せ、海を渡るときはフェリーに乗せるなど、その時々の苦労も多いし、思わぬお金もかかる。九州を一周して四国、小豆島を経て本州の姫路に上陸。北上して北海道の帯広が旅の終着地点となった。道中はほぼテントを張って野宿、たまに宿と風呂を提供してくれる親切な人もいる。

1年2カ月かけて文字通り日本中を徒歩で移動した旅の記録であり、平和のありがたさや日本人の善意が身に沁みるが、作者は北海道で塩を作ってロバにのせて日本中を売って歩こうか、と本気で考えているのである。ロバは世界に5000万頭もいるが、日本にはわずか300頭しかいないので、実際にロバを見たことのある日本人は少ない。読み始めるとすぐに肩のこり、体中のこりがほぐれて、別世界に引き込まれる。優しいのに少しも甘くないロバとの付き合い、読者を一緒に旅している気にさせる良書である。