忘れられた日本史の現場を歩く

八木澤高明著 辰巳出版 2024年6月刊

著者は1972年生まれのノンフィクション作家、カメラマン。事件や色街、人物取材など、世間があまり目を向けたがらない歴史や人物を対象にした取材で定評がある。著書も多い。本書は、さまざまな理由で歴史から忘れさられた場所や遺構を求めて、日本各地を探訪したルポ。北海道から九州まで19カ所を取り上げている。

登場する場所はかなり珍しい。あまり他の本では見かけない所が多い。たとえば、高知山中の呪術師の集落、姨捨伝説の残る東北の森、本州にあったアイヌの集落跡、朝廷と戦った蝦夷の墓、飢餓で滅んだ信州の村、かつて遊女で栄えた瀬戸内の島、無戸籍者たちが隠れ住んだ秩父の里などなど、どれも小説の舞台になりそうな場所ばかり。著者の撮影した写真と文章で紹介され、初めて耳にする場所もある。

50代の練達の書き手だけあって、文章は読んでいて安心感がある。残念なのは一編一編のルポがあまりにも短いこと。全体で128頁に19本のルポだから、一編あたり6~7頁。しかも写真も込みだ。面白くなってきてもう少し知りたいと思うところで、終わってしまうのが何とも消化不良。あまり魅力的ではない場所をはずし、取材先を10カ所くらいにしぼれば、令和の宮本常一的なルポになったのにと惜しまれる。