
髙橋大輔著 草思社 2025年2月刊
著者は秋田県在住のノンフィクションライター。ロビンソン・クルーソーの島を探したり、間宮林蔵の探検した場所を巡ったり、浦島太郎の伝説の地を探したり、漂流民が暮らした孤島鳥島の洞窟の実際の場所を探り当てたり、国内外を問わず、伝説や物語の舞台を調査するルポを得意とする。
本書は、福井県小浜地方を中心に残る八百比丘尼伝説の真相を追うというもの。八百比丘尼は人魚の肉を食べたことから、八百年の寿命を得たという女性のことを指す。八百比丘尼や人魚にまつわる伝承は日本各地にあり、著者はそれらを丁寧に調べ、実際にその地を訪問し、現地の人の話を聞いて回る。手法としては実に堅実なものだ。しかもその調査の量は半端ではなく、そのために投入された労力は生半可なものではない。本書でも、全国各地を取材しており、その努力には頭が下がる思いだ。
難点は、本書が全国の地方新聞に長期連載されたため、全体にやや冗長となっていること。また、多くの資料にあたり、現地を踏査してはいるものの、やはり残されている遺物が少なく、人魚の実像や八百比丘尼伝説の真相に迫るには材料不足で、今ひとつ消化不良の感が残るのは残念。ただ、面白いテーマであり、大変な労作ではあるのは間違いない。