桐島滋著 産業編集センター 2023年11月刊
著者はテレビ制作会社出身のフリーライター。中東を中心に紛争をかかえた地域を取材し、映像や文章で発表を行っている。アラビア語を習得するために移住したレバノンで、多くのシリア人に出会い、戦争やシリアの国内事情を聞くことがあった。しだいにシリアに対する関心が高まって、いつか旅をしたいと思うようになっていた。
しかし、周知の通り、シリアは戦争の舞台であり、イスラム過激派が跋扈、しかもそれと敵対するアサド政権による超独裁政権が続く国。簡単に観光旅行ができる状態ではない。それがひょんなことから、シリア旅行の機会を得て、ガイドやドライバーと共にシリア国内を巡ることができた。本書は、そうした限定された状況の中で、知られざるシリアの今を旅した記録である。
戦渦の中の国であり、秘密警察が監視する超のつく独裁国家だけに、著者の行動は慎重だ。幸いにアラビア語が出来るので、地元の人とのコミュニケーションは取れる。自由行動では普通の観光では行かない場所にも足を伸ばす。そこで見えてきたのは日常と戦争が地続きでつながっている生活。しかもこの状態の出口は見えない。そうした閉塞状況を嫌って、国を出るシリア人も少なくない。限られた見聞の中からも、シリアの事情やシリアの人々の生活が垣間見えて興味は尽きない。文章は平易で読みやすいので、戦争ルポ以外のシリアの人々の営みに関心を持つ人なら一読の価値はある