シニアになって、ひとり旅

下川裕治著 朝日新聞出版 2024年4月刊

著者は数多くの本を著わしているベテランの旅行作家。本書は、コロナ禍で海外取材旅行がほぼ皆無となった著者が、編集者やカメラマンの同行もなく、一人で旅に出た旅行記。文庫の書き下ろしだ。

本書内で著者も述べているが、旅行作家となって職業的に旅に出るようになってからは、ほぼ取材が旅の目的だった。今回のように純粋に旅を楽しむ目的で国内を回るというのは本当に久しぶりのようだ。その意味では、これまでの下川氏の本とは一味違った内容に仕上がっている。

旅の目的地は、花巻の地元デパートの食堂、千葉のローカル鉄道と美術館、品川用水跡の暗渠道歩き、苫小牧発仙台行フェリー旅、高尾山への低登山、都内の路線バスの小旅行、 そして、尾崎放哉の足跡を訪ねて小豆島を一人旅。まさに男性シニアが一人で行くのにふさわしい(?)場所ばかり。評者もまねしたくなった。

さすがにプロの旅行作家だけあって、文章は平易で安心して読める。とにかく、取材という目的ではなく、純粋に自分が行きたい場所に行くという旅のスタイルがいい。決して声高にならない文体にも好感が持てる。