荻田恭永著 産業編集センター 2024年11月刊
著書は1977年生まれ。アウトドアの経験もないのに、23歳の時に冒険家・大場満郎氏が主宰した「北磁極を目指す冒険ウォーク」に参加。その後、自身も極地探検家となる。2018年南極点無補給単独徒歩到達を達成し、同年「植村直己冒険賞」受賞している。
本書は、そうした経歴を持つ著者が、今度は自分が若者を北極に連れて行く番だと、2019年に10代、20代の12人の若者を連れて総距離607kmを踏破した記録である。だが、単なる記録ではない。若者たちのほとんどはキャンプやアウトドアの経験もなく、運動さえもしたことがないレベル。約1カ月分の食料等を乗せた重さ数十キロのソリを各々が曳きながら、海氷の上を進んでいく。
旅のはじめ、若者たちの大学生サークルのようなノリの軽さでいくつかの問題が起きる。圧倒的な自然とそのリスク、自分の体力・気力と相対することにより、若者たちが成長していく様がリアルに描かれている。荻田氏の綿密な計画や思考には、人生観というかリーダーとはかくあるべきという一つの像を見る。
「極地で一番強い人は、己の弱さを自覚し、人に助けを求められる人」などの著者の言葉の数々は我々の日常にも共通する。バックグラウンドも個性もバラバラな若者たちの個性は北極という極限の中で表面化してくる。著者の荻田氏を含めこの冒険ツアーの中の誰かを、過去や今の自分を重ねてしまう。極地に行かない人にも読んでほしい良書。