ボスニア・ヘルツェゴビナ 2005年に文化遺産として登録
香高英明/文・写真
モスタルはボスニア・ヘルツェゴビナの5番目に大きな都市で、首都サラエボの南西120㎞の街、車で約3時間、長距離バスが毎日10往復程度運行されている。また、アドリア海のクロアチアの街ドブロヴニクからも約3時間、その他のクロアチア各都市とも結ばれている。
モスタルの由来はMost(橋)で、「橋の守り神」の意味を持つ。橋は人間ばかりでなく、神々や魔物も通る。サラエボには第1次世界大戦のきっかけになった血なまぐさいラテン橋があり、93年の内戦時には「スタリ・モスト(古い橋)」も民族間の争いに巻き込まれた。2005年には世界遺産に登録された。
石灰岩の白さと緑豊かな渓谷美を持つ街モスタル、地中海性気候だが冬は寒く、夏は暑い。秋から冬にかけては雨が多く雪は少ない。市内を流れるネレトヴァ川に架かるアーチ状の石の橋「スタリ・モスト」は16世紀、オスマントルコによって建造され、この街の象徴的存在になっており、ヘルツェゴビナ地方の観光名所として賑わっている。
欧州とは思えないような東洋的な雰囲気が漂うこの町は、歴史的、地理的背景からイスラム教徒とキリスト教徒が共存してきた。1993年のボスニア内戦時は、クロアチア系住民、イスラム系住民、セルビア系住民の激しい戦闘でこの橋は破壊された。その後ユネスコなどの協力で2004年に復元され、世界遺産として登録された。橋の近くには「93年を忘れるな」と刻まれた石が安置されている。
ネレトヴァ川、そこに架かるスタリ・モストは、今やイスラムとカトリック、正教、そして民族を繋ぐ橋になっている。スタリ・モストでは、街の猛者たちが川面から20m以上ある橋上から華麗な飛び込みを披露し、その完成度を競う伝統競技「ブリッジバンジージャンプ」も再開され、再び平和の象徴になりつつある。
スタリ・モストを中心としたエキゾチックな雰囲気が漂う石畳の旧市街、初期キリスト教のクリムバシリカ、オスマン時代のハンマーム(公共浴場)、時計塔、シナゴーグとユダヤ教徒の共同墓地など多くの教会、モスク類、修道院がある。
また、ネレトヴァ川河口寄りに向かうと、ブドウ畑などが広がっており、最近モスタル産ワインが注目されている。旧ユーゴは隠れたワイン王国で、アドリア海に程近いヘルツェゴビナ地方のものが有名である。