小坂洋右著 藤原書店 2023年1月刊
北海道アイヌの狩猟、移動、和人やロシア人との遭遇など、近世から現代にかけての史料を参照しながら描き出す力作。アイヌ文化や神話への記述も深い。アイヌの行動だけでなく、幕末の探検家松浦武四郎の手記をもとに検証し、また松浦の踏破した山路を実際に歩くなど、現場主義が徹底している。特に、机上の論理と資料的のみにならぬよう、実際の土地を歩き、カヌーなどで海や川を移動して実見する姿勢が際立っている。
とはいえ、本書は冒険譚ではなく、あくまで歴史と暮らしを追究するものであることに変わりはない。特に相当困難で危険な航海や山行を経ても、決して冒険の達成感に浸ることなく、あくまでも史実をリアリティをもって、実地で体験するための方法論としている点が清々しい。
近世までのアイヌの道と河川ルートに沿っての移動を実体験しながら、北海道の広大さ、山岳や河川、海岸の描写が丁寧になされている。現代の鉄道や道路のルートだけでない北海道の景色を知ることもでき、これも旅の一側面であると感じる。事実、各地で催行されているカヌーツアーで体験できる、低い視点からの自然の景観にも一脈通じる。 国境とは別に先住民がいたということ、日露などの近代国家が先住民を非道に搾取・使役した歴史にも目が届いているが、単なる感情論、善悪論になっていないことが素晴らしい。