宮田珠己著 亜紀書房 2023年11月刊
著者は「旅と散歩と変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト」(本書より)。ユーモア系、脱力系エッセイの書き手として評価は高く、タマキングとの愛称で根強い人気がある。本書は亜紀書房のWEBマガジンに連載した原稿に加筆・修正を行ない、書き下ろしを加えたもの。
内容は都内近郊を中心に、著者と編集者(同行しない回もある)が街中を歩き、気になったもの、珍しく思えた場所をめぐる紀行。全体は10章に分かれ、登場する地域は目白から哲学堂、赤塚から高島平、大鳥居から平和島、王子から赤羽、神楽坂から曙橋など。ちなみに書名にある「センス・オブ・ワンダー」のワンダーはwonder(驚異)ではなくwander(放浪、散歩)の意味だそうである。
とにかく有名な観光地でも、大自然の中でもない、ごく普通の街中を歩いて行くわけだが、変なものや珍奇なものを見つけ出す著者の視線は鋭く、平凡な街にも発見は満ちている。さすがに脱力系の書き手だけに、肩肘を張らないたんたんとした記述ながら、ところどころで思わず笑ってしまう。同行の編集者との掛け合いも楽しく、特に大きな事件が起きるわけではないが350ページをあっという間に読んでしまった。これはやはり著者の筆力の賜物だろう。宮田ファンなら読んで損のない佳作。