山口由美 光文社 2024年4月刊
著者の山口由美は、富士屋ホテル創業者を曾祖父に持つ、旅とホテルをテーマとした文筆家である。本書では新しい旅のスタンダードとしてのラグジュアリートラベルについて、自身の体験を踏まえその可能性を語っている。
著者はラグジュアリートラベルの代表例として、贅沢な空間に滞在しながら野生動物と対峙するゲームドライブを楽しみ、ブッシュの真ん中で大地に沈む太陽を眺めながらカクテルタイムを楽しむサンダウナーなど、全く新しいサファリの「冒険」と「体験」が滞在の最大のテーマとなるアフリカサファリロッジでの旅を挙げている。
欧米人にとって「コンフォートゾーン」の外にこそ本当に面白い世界があり、それこそがラグジュアリーという考え方があり、それがこの旅の一つのカタチなのだ。
このラグジュアリートラベルは、富裕層旅行ともいわれる。JNTO(日本政府観光局)によれば、1回に消費する金額を百万円以上と定義する旅行である。主要国の富裕層旅行者数は全体の1%だが、その消費額は全体の13%以上といわれ、この富裕層の取り組みが、これからの日本の観光の1つの重要なテーマといわれている。
本書はラグジュアリートラベルのスタイルが多様化し進化し、様々な形で展開していることを紹介していく。しかし、本書の最大の眼目は、日本のラグジュアリートラベルの進化のためには、まず「旅の目的は食と温泉である」という昔ながらの常識を超えた発想が必要という点にある。まさにそのキーワードがラグジュアリートラベルの本質である「冒険」であり、価値ある「体験」なのだ、と提起するのである。
これからの日本の旅と観光に新しい視点を提示する魅力的な一冊である。