観光地ぶらり

橋本倫史著 太田出版 2024年3月刊

著者は1982年生まれのノンフィクションライター。本書は、全国の「観光地」と呼ばれる場所10箇所を巡り、その土地の歴史から日本の近代の歩んできた足跡を探るという意欲的な旅行記。登場する「観光地」は道後温泉、竹富島、神戸摩耶山、猪苗代、羅臼、横手、瀬戸内海、五島列島、広島、登別・洞爺。

ノンフィクションものの王道のように、著者はよく資料を調べ、また人に会って話を聞いている。その過程を経るうちに、「観光地」として単色に見えていた風景が様々な色合いで浮かび上がってくる。

たとえば、秋田県の横手。ここは「横手やきそば」の発祥地として有名になった場所だが、B級グルメのために即製に作られた名物ではなく、古くから地元に根ざした食べ物、まさにソウルフードだった。その歴史を知ると、自分も横手に行って、横手やきそばを食べてみたくなってくる。

あるいは北海道の羅臼。同じ知床でも、ウトロに比べると地味な印象のこの町にも当然、歴史はある。通りいっぺんの旅行者にはそれは見えてこない。著者は町史を読み、店で偶然に出会った地元の住民からも話を聞き、羅臼の歴史を紐解いて、さらに名曲「知床旅情」の秘話についても記す。

他の各地の旅行記にも共通するのは、土地には必ず歴史があり、その物語を探すという著者の姿勢だ。風景もそこに暮らしていた住人の生活とは切り離せないもの。「観光」とは何かを考えさせられる本でもある。