バルカン半島4カ国取材旅行(7)

清原真里/文・写真

コトル(モンテネグロ)

6月28日(火)

モンテネグロ入国

モンテネグロは福島県ほどの大きさの国土に、62万人が住む。クロアチア、ボスニア・ヘルツェコビナ、セルビア、アルバニア、コソボと旧ユーゴスラビア諸国と国境を接し、南側はアドリア海に面している。主な産業は、農業や製造業、そして近年伸びているのが観光業。宗教は74%がキリスト教(正教会)、17%がイスラム教。

私たちのバスはアルバニアから山越えをしてモンテネグロに入る。アドリア海が見えると、バスの中は「おお!」という驚きや喜びの声で溢れる。久しぶりに見た海、そしてその蒼さに、みんな気持ちが昂る。

バスは海岸へ向かう九十九折りの道をぐんぐん降りてブドヴァの街へ近づくと、ビーチサンダルに水着姿、肩にバスタオルをかけた家族連れを多く見かける。この街はビーチリゾートなのだ。

ブドヴァ旧市街散策

ビーチ沿いのレストランで昼食を摂った後、レストランが並ぶ通りを抜けて、旧市街まで散策。旧市街は元々は小島だったのだが、地峡で繋がり、小島だった部分は城壁に囲まれている。7世紀・9世紀に創建された2つの教会、そして19世紀初頭に建てられた教会などを駆け足で見て廻り、この旅の最終目的地コトルへ向かった。

バルカンツアー5つ目の世界遺産コトル

コトル湾の一番奥まった場所にある小さな美しい港町コトル。古代ローマ時代にはすでに街の存在が確認されており、リアス式海岸の自然と中世からの街並みを評価され、1979年にユネスコの世界遺産に登録されている。JTWOバルカンツアー一行はこの街に短時間滞在して帰国の途についたが、私と友人はJTWOメンバーとは別行動で、この街に2泊することにしていた。コトルも城壁に囲まれた街。湾に接したわずかな平地の旧市街の部分のみならず、すぐ後ろの山の頂きにかけてその城壁は続き、ぐるりと一周4.5km。早速、城壁を登れるところまで上ってみようと、入場料を払って歩き始めた。夕刻とはいえまだ日差しが強く気温も高い。汗が噴き出す。急な斜面を登り続けると息がきれる。小さなチャペルがある中腹を過ぎ、せっかく入場料を払ったからと変な“もったいない精神”が出てしまい、結局八合目ぐらいまで登った。コトル湾が一望でき、絶景。港には高級クルーズ船が何艘も入港している。

コトルはショッピングも楽しい

コトルの旧市街は迷路のように道が曲がりくねっていて、街歩きが楽しい。角を曲がるたびにレストランや可愛らしいショップが見つかり、「また後でゆっくり見に来ようね」と友人と話すものの、複雑な道に振り回され、「どこだったっけ」と迷ってしまう。所詮、小さな街だから、フラフラと歩いているうちに、目的のお店がまた目の前に出てくる。モンテネグロ産ワインの品揃えが良いワインショップ、イタリア製のリーズナブルでおしゃれなバッグを売る店、地元のオリーブの実やパプリカを加工した瓶詰などが並ぶ食料品店。どれもこれも魅力的で最終日にはたくさんのお土産を買い込むことになった。

私たちが2泊した「Hippocampus」は、17世紀からある石造りの建物を上手にリノベーションしてある小さなホテルだ。ルーフトップにレストランとバーがあり、夕刻には無料で“wine tasting event”が開催されており、スパークリングから白・ロゼ・赤まで幅広いバリエーションのワインを無料試飲することができた。試飲ついでにそのままテーブルに案内してもらい、ディナーもこちらでいただいた。魚介のトマトソースパスタが絶品。アボガドとキヌアのサラダも良い味。コトル滞在中はどのお店で何を食べても美味しかった。15世紀からヴェネチアの支配下であったのだから、美味しいイタリア料理からの影響が大きいのだろう。

夕食後、散歩をしていたら、どこからともなく歌声が聞こえる。声を頼りに幾つかの角を曲がり、大聖堂の前の前にある広場に出ると、そこではアカペラの合唱コンサートが開催されていた。ライトアップされた聖堂に響き渡る歌声は幻想的。こんなタイミングにコトルに滞在できて、私たちは運が良い。

6月29日(土)

コトル2日目

コトル滞在2日目は、スピードボートに乗ってコトル湾観光。まずは、「岩の上の聖母(Our Lady of the Rock)」と呼ばれる中世からある人工島へ。小さな教会があり、船乗りたちが船の航行の安全を祈る場所だったそう。リアス式海岸の絶壁を利用して作った潜水艦の格納基地。カマボコ型の基地の中にボートのまま進む。スパイ映画の撮影でもできそうな雰囲気。ツアーのメインは「青の洞窟」。他のお客さんは水着を来てきたようで、Tシャツや短パンを脱いで海に飛び込んでいた。まさか泳げると思わず、水着を着てこなかったことを後悔した。スピードボートがスピードを出しすぎるのがスリリングで少し怖かったけれど、リアス式海岸の自然が生み出した美しいコトル湾を堪能した一日になった。

宿泊していたホテルのルーフトップレストランのウエイターが「日本語で◯◯ってなんていうの?」と何度も聞いてくる。聞くと、セルビア人でコトルは観光地なので働きに来ていると。そして日本のアニメの大ファンだとも。「日本語を勉強したいし、日本にも行ってみたい」という彼と、しばしアニメ談義。私は普段は海外旅行に出かけるときにはちょっとしたアニメグッズを持っていくことにしているのだが、今回の旅行には失念してしまった。唯一持ってきていた『呪術廻戦』のキャラクターの手拭いをアルバニアのレストランでやはりアニメファンのウェイターに進呈してしまい、手元にもう何もない。「日本の街の様子の写真を送ってほしい」と言われ、連絡先を交換した。昨年行ったチリでも熱心なアニメファンに会ったが、バルカン半島でも若者は日本のサブカルチャーに夢中なのだ。

6月30日(日)

帰国の途へ

3日目にホテルをチェックアウト後、予約してあったタクシーでモンテネグロの首都ポドゴリッツアの空港へ。JTWOメンバーから遅れること2日、イスタンブール経由で帰国した。旅の仲間としてすっかり親しくなった今回のJTWOメンバー。一緒にコトルで滞在したかったなあと寂しい気持ちもあった。そしてモンテネグロで美しいアドリア海にすっかり魅了された友人と私は、「来年はお隣のクロアチアとスロベニアを旅行しようよ」と意見が一致。早くも1年後の旅行プランの話で日本への長い空路もあっという間だった。