イタリア 1997年に文化遺産として登録
宮澤乃里子/文・写真
ナポリの南東40㎞にわたる変化に富んだ海岸線と紺碧の海。「世界で一番美しい海岸」といわれている。断崖絶壁の間には、段々畑や木々の緑、レモンなどの果物が見え隠れし、崖に張り付いたように美しい街が点在している。海岸沿いの道は絶景が続くが、夏はものすごい渋滞となる。
よく知られているのは、映画の舞台にもなったアマルフィだろう。港のバスターミナルから入っていくと、大聖堂の階段と噴水のある広場、そして1本の道には、お土産屋が並び、観光客がざわめいている。以前は、ヴェネチア、ジェノバと並ぶ海洋国家として発展した歴史をもつが、今は陽気なリゾート地。漁師の守り神を祭る大聖堂や天国の回廊も美しい。この聖堂では、何度か結婚式に遭遇した。レモンの匂いがいっぱいの店を覗くもよし、細い迷路を登ってみるのもよし、レストランやカフェで一休みも楽しい。南ならではの陽気さで、街の人も人懐っこく親切だ。
アマルフィからバスで坂道を登った先にあるラベッロは、俯瞰で海岸の美しさを堪能できる大人のリゾート。高級なホテルや別荘があり、夏には音楽祭も開かれている。張り出したヴィラの庭で、オーケストラが演奏している写真を見たので、聴きに行きたかったが、宿泊した日は、ピアノ演奏会だけだった。古いヴィラで聴くピアノもなかなかよかった。
私が一番好きな街は、断然、ポジターノ。すぐにでも行きたい。セレブに人気の“ポジターノファッション”は、服だけでなく、センスのいい街全体の雰囲気を象徴している。崖にへばりついた街なので、地図では高低差がわからず、とにかく坂と階段ばかり。サレルノから船で行き、港近くに宿泊することにしているが、いつも足が疲れる。
ある年、一人旅で、海の見えるテラスつきの部屋に宿泊した。朝は、だんだんと海の色が変わり、港に荷物を持った観光客がやってくる。船が着くと客が乗り降りし、人々が行き交う。それををウトウトしながら、テラスで眺める。食事どきには、海岸に出かけていき、お気に入りのレストランで、美味しいシーフード。レモンチェッロとお兄さんの笑顔のサービスがうれしい。おしゃれな店を覗き、またホテルに戻って、テラスでウトウト……。夜は船の灯りと家々の灯り、空に星が輝く。
生産的なことを何もしない1日が過ぎていく。「私の天国」「脳みそがとろけそう」と日本にメールした。