ボヤナ教会

ブルガリア 1979年に文化遺産として登録  

渡辺節子/文・写真

・ブルガリア西部/首都ソフィアの南西郊外、ヴィトシャ山麓に建つ、11世紀、13世紀、19世紀と時代の違う3つの聖堂からなるブルガリア正教会。
・聖堂内部の13世紀のフレスコ画は後に西欧、イタリアルネッサンスに多大の影響を与える。
・3つの違う時代に建てられた聖堂は、建築様式こそ違うがうまく調和している。

 私がはじめてボヤナ教会のフレスコ画「貴族カロヤンとその妻デシスラヴァ」のレプリカを観たのは、1970年代のニューヨークの国連ビル総会会場である。シャガールのステンドグラス、ノーマンロックウェルの絵、長崎の鐘など加盟国からの贈り物が飾られた隅の壁にひっそりと掛かっていた。

 ビザンチン様式にそぐわないみずみずしい表情、そしてまだルネッサンス時代の強すぎる自己主張も小賢しさのない、深く心に残る清らかな人物像でした。後日国連で切手を出した時も買い求めました。

 旧ソ連時代のブルガリアには何度も行く機会があったが、ボヤナ教会は閉鎖中。2009年にやっと訪れることができました。リラ僧院のように大きな境内に沢山の建物群を観た後で、ここに立ち寄った時にはほっとしました。丘の小道の中腹に木の間に隠れるように、丸屋根の小さなビザンチン様式の教会が建っていました。外壁は古びた赤茶レンガ、パッチワークのように様々な時代の様々な色のレンガで修復してあり、風格を添えていました。
 途中の小屋で切符を買って、ボヤナ教会専属ガイドがついて、聖堂内の見学です。撮影禁止です。内部は更に小さくやっと10人入れます。私達のほかには見学者はいませんでした。
 ガイドはこちらが興味をしめせばいくらでも丁寧に説明してくれました。無名のブルガリアの画家達が描いた壁を埋め尽くすフレスコ画は、後に西欧ルネッサンスに影響を与えたということでした。二層、三層に上描きされていたから、絵の保存状態はとてもよかった。
 後に、在日ブルガリア共和国大使ゲオルギ・ヴァシレフ氏にお会いした時に、国連でボヤナ教会のフレスコ画のレプリカを観て感動したとお話したら、目を輝かせ、件の画の解説をしてくださった。1973年にブルガリア政府から国連に寄贈したものだそうだ。イタリアのルネッサンスの立て役者ジオットが生まれる100年も前に、ブルガリアにはこんな素晴らしい作品があった。西欧のルネッサンスの源流はイタリアでなく、ブルガリアのボヤナ教会のフレスコ画なのだと強調なさった。トルコの圧政の次はロシア、それからソ連と他国の支配下での苦しい時期があり、今もなお西欧では最下位の貧乏国と差別されている国。でもトラキア、古代ローマ、ビザンチンの時代からの西欧のどの国よりも古い栄光の歴史や文化遺産があるのだという、強いプライドと祖国愛をお持ちだと感じました。

参照 http://www.boyanachurch.org/indexen.htm


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