ナイル川流域に栄えた古代エジプト文明

山田恒一郎/文・写真

エジプトの世界文化遺産から
1.メンフィスとその墓地遺跡‐ギーザからダハシュールまでのピラミッド地帯 2.古代都市テーベとその墓地遺跡
3.アブシンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群 4.カイロ歴史地区 ※いずれも1979年に文化遺産として登録

 言うまでもなく、「エジプトはナイルの賜物」(ギリシアの歴史家ヘロドトス記)だった。世界最長(6650㎞)のナイル川中下流の肥沃な氾濫原に、かつて世界最古で最長の王朝が栄華を極めた。紀元前3000年ごろ(一説にBC3150年)、“上エジプト”と呼ばれる地域の王メネスがエジプト全体を統一し、自らをファラオ(大きな家)と呼んで君臨した(第一王朝)。メネス王に始まる古代エジプト王朝が、紀元前4世紀(BC332)にアレクサンダー大王に征服されるまで、2800年余りも続いたことは驚異に値する。
 エジプト古王国時代(第3~6王朝)のファラオ、クフ王、カフラー王、メンカウラー王が造営した三大ピラミッドが、カイロ郊外のギザにある。中でも、クフ王のピラミッドは高さ138.8mで、世界最大である。

 紀元前1550年、エジプトにテーベ(ナイル川中流の都市、現在のルクソール)を王都とする新王国(第18~20王朝)が誕生すると、次々に強力なファラオが現れて領土を広げ、エジプトは最盛期を迎えた。第18王朝第4代の女王ハトシェプストは、ナイル西岸の王家の谷(岩窟墓群)の東岩壁に、王権を誇示し永遠の魂と来世の繁栄を象徴する大規模な3段テラス式の葬祭殿を造営し、壁面を栄華極まる王国の浮彫りで飾った。第19王朝第3代の王、ラメセス2世は、ナイル中流域に数々の神殿を建設し、己れの巨大石像を据えた。スーダン国境に造営されたアブ・シンベル神殿には、ラメセス2世の意思が強く顕れている。
 新王国時代の歴代の王は、国家最高神アメン神を奉るため、ナイル東岸のルクソールにも、カルナック神殿を建増設した。第18王朝第9代の王アメンホテプ3世は、カルナック神殿の中央に延べ138本の巨大な柱を並べ、列柱室を建造した。
 しかし、ファラオの時代から今日まで、気の遠くなるほどの時間の経過は、栄華の証しの多くを砂中に埋もれさせたか、切り出して別の用途に仕向けた。幾つかの建造物だけがその巨大さゆえに、一旦は砂漠の砂塵に埋もれかけ、そして掘り起こされた。オベリスク、巨大石柱、ファラオの巨像が林立し、戦う王と兵士の浮彫りで装飾されたナイル河岸の大神殿を目指して、いま世界中から「知の巡礼者たち」が引きも切らずに押し寄せる。繁栄する永遠の治世を望んだファラオの夢は、砂漠の砂中から現代に蘇ったと言えよう。(写真はすべて2008年10月に撮影)

この記事を書いた人

山田恒一郎

山田恒一郎

1948年東京都生まれ。マサチューセツ工科大学大学院(交通経済学修士)。
国土交通省に勤務、国内/国際両業務を歴任。退職後2004年から2019年までパリに移住。ヨーロッパ、中東、北アフリカを対象に旅行ジャーナリストとして活動。パリ・マラソン、メドック・ワイン・マラソンの連続10回フィニッシャー。フランスのトップシェフとの交流を深める。現在、(有)山田総合企画取締役。
主な著書に
「世界のウォーターフロント」(沖縄総合事務局監修)
「English Gardens and Flowers」(大修館書店、英語教育誌12回連載)
「世界紀行」(潮出版社、潮誌連載)など多数。