
古舘祐太郎著 幻冬舎 2025年3月刊
著者は1991年生まれの俳優・ミュージシャン。有名アナウンサーの実子だが、そのことはプロフィールにも、本文にもまったく書かれていない。本書は旅が嫌いだった32歳の青年が、ひょんなきっかけから2カ月間、アジアを一人で放浪するはめになり、ネパールまで出かけた旅の記録。
旅の本を書くような人は、普通は旅が大好きで、移動を苦にしないもの。しかし、本書の著者は違う。やや病的なほどの潔癖症で虚弱体質。神経質で不潔な環境に弱い。食事の好き嫌いも少なくない。救いは多少、英語ができることぐらい。そんな男が旅をするのだから、最初からトラブルが続出する。文句を言い、弱音を吐きながら、タイを振り出しに、カンボジア、ベトナム、ラオス、中国、バングラデシュ、ネパールと旅をし、インド、スリランカにも足を延ばす。旅のスタートはへなちょこだった男が、旅を重ねていくうちに、しだいに腹の据わったふてぶてしい男に変わっていく様子がなかなか面白く、あっという間に読了した。
読む前は手軽なタレントの旅のエッセイかと思っていたら、なかなかどうして、優れた観察眼や心の動きの的確な表現力もある。あとがきによれば、61日間の旅で書いた2冊のノートに書いた記録がベースになっているようで、臨場感にあふれた楽しい読み物に仕上がっている。旅に慣れない若い世代の背中を押すような一冊。
