アジア発酵紀行

小倉ヒラク著 文藝春秋 2023年11月刊

学生時代からバックパッカーの旅を重ね、就職後たまたま発酵に魅了され、東京農大で発酵を学び山梨で発酵ラボを設立。少し遠回りして発酵の専門家となった著者。日本の発酵食品や酒、それらの基にある麹と糀(麦からできるのが麹、米からは糀なのだそうだ)に関し、著者は日本の発酵のルーツかもしれないアジアに行くことを決意する。理由は、書かれていない。多分、突然そう思ったのだと思われる。

まず中国・雲南とラオス、ミャンマー国境付近を訪ねる。大学での知識から雲南に米糀のルーツがありそうだという情報は裏切られる。が、そこでも豊かな麹文化に出合う。うっかり国境の向こうに行ってしまうと、どうなるかわからぬ危険地帯。糀探しはネパールから東北インドへと進む。西北にブータン、北がチベット、西南にバングラデシュ、東はミャンマーという土地だ。そのとき、インド・マニプルでは民族暴動による戒厳令下でさえある。それでも、超ローカルな発酵食品や酒を知りたい衝動で旅が続いていく。各地の市井の発酵家も著者の手さばきや知識に発酵の専門家であると感じ、交流が深まってゆくのが快い。発酵でつながる各地の友人知人の助けを得ての個人旅だ。 文章はテキパキとすっきり進み、現地で会う人々や友人たちとの会話を通した情報が豊富で、マスコミでの報道とは一味も二味も違う。麹や発酵に加えて、多民族混住地域の複雑さや困難さがひしひしと伝わってくる。混沌とした多民族地域では、見る位置によって事態は異なるのだということを改めて知った。発酵という技術のプロフェッショナルが、旅の深みと凄みを描き出した良書と言える。