草軽電鉄物語

芦原伸著 信濃毎日新聞社 2023年7月刊

鉄道紀行、旅行ノンフィクションで定評ある著者が、1962(昭和37)年に廃線になった草軽電鉄の廃線跡を辿るとともに、ゆかりのある人物からさまざまなエピソードを取材。雑誌「旅と鉄道」に2年間にわたって連載されたものに加筆、改稿をしてまとめたもの。

草軽電鉄は廃線になって既に50年以上が経過。往時を知る人や関係者は少なくなっている。著者も廃線時は中学生。草軽電鉄に乗る夢は果たすことができなかった。その代わりか、本書では草軽電鉄の路線跡をよく調べ、ほぼ全線を踏破している、途中は人家も少なく,熊も出没する山中。その努力だけでも評価できる。

現在の軽井沢駅の近くにあった新軽井沢駅跡から、終点の草津温泉駅跡をめざすが、本書が旅行ノンフィクションとして優れているのは資料をよく調べ、大正時代の開業の理由から、利用状況、廃線にいたった事情までを網羅している点だ。合間に廃線跡をめぐる紀行があり、草軽電鉄をめぐる物語を立体化している。

著者も本書で言及しているが、草軽電鉄の廃線は早すぎた決断だった。もう少し頑張っていれば,その後の観光ブームに乗り、人気の鉄道になれた可能性は高かっただろう。沿線風景の記述を読むと,この景色の中をかわいい電車に乗ってみたかったと評者も思う。ちなみに、草軽電鉄とは草津と軽井沢ではなく、「草津軽便」の略だそうだ(知らなかった)。