チェコ 1996年に文化遺産として登録
沖島博美/文・写真
リヒテンシュタイン公国は今でこそスイスとオーストリアに囲まれた小さな国であるが、そのルーツをたどると12世紀にまで遡る歴史ある貴族である。ドイツのドーナウヴェルト出身であり、神聖ローマ帝国の一員でもあった。14世紀からハプスブルク家に忠実な家臣となり、ウィーン近郊をはじめ東ヨーロッパでリヒテンシュタイン家は栄えた。チェコの南東部、モラヴィアのオーストリア国境には素晴らしい城があり、1996年に世界文化遺産に登録された。
それは17世紀から19世紀にかけて完成した2つの城、レドニツェとヴァルチツェである。2つの城は8キロメートルほど離れているが、その間に池や建物を配置した広大な庭園を作り上げ、それらを含めたおよそ283平方キロメートルが世界遺産となっている。リヒテンシュタイン侯爵のカール一世がヴァルチツェ城を居城にしたことから、以来レドニツェ城の方は夏の離宮になった。ヴァルチツェには鉄道駅もあり、今日では人口4000人ほどの小さな町だが、モラヴィアワインの集積地でもあることから特にオーストリアからの観光客が多い。城の見学はツアーでのみ可能。しかし地下の酒蔵はいつでも見学することができる。この辺りはチェコの高級ワインであるモラヴィアワインの産地であり、城の地下ではワインの販売が行われている。
ヴァルチツェ城から、レドニツェ城までは真っすぐな道が造られている。高低があるので視界はさえぎられるが、確かに真っすぐである。18世紀に馬車道として建設されたもので、地図で確かめても直線になっている。レドニツェ城の方が古いのだが周囲を緑で囲まれていることから夏の離宮となった。何度も建て替えられているが、19世紀半ばに完成したのが現在の城である。城の前には美しいバロック庭園があるが、これは一般的なもの。珍しいのは池の向こうにあるミナレットで、高さは62メートルもあるという。展望台として建てられたものだが、歴代の侯爵はイスラム建築やギリシャ建築に興味があったらしく広大な敷地内には新古典主義の建造物もいくつかある。
最大の見ものはレドニツェ城内の階段。ここもツアーで見学するのだが、最初の方に現れる書斎には1本の樫の木で作られたという螺旋階段がある。見事な彫刻が施され、ウィーンの職人が3人がかりで5年の歳月をかけて彫り上げたものだという。これを眺めるだけでもはるばるやって来た甲斐があると感じるレドニツェ城である。