イタリア 1995年に文化遺産として登録
宮澤乃里子/文・写真
トスカーナ地方の都市シエーナの歴史地区は、ゴシック建築の街並みや広場が魅力で、芸術作品も多い。特に、ドゥオモの床のモザイクは素晴らしい。国立エノテーカでワインの世界を知ったり、街歩きも楽しい
中心のカンポ広場は、ゆるやかに傾斜した扇型をしていて、普段は、のんびり観光客が寝そべっていたり、泉にハトが水を飲みに来たりしている。この広場は、年に2回、街の人々を熱狂させる競馬レース「パリオ」が行われることで有名。広場に行くたび、いつかパリオを見てみたいと思っていた。
2015年7月、旅の計画をしていて、パリオを見ることが可能な日程であることに気が付いた。急遽コースを変更して、パリオを見物することにした。ホテルはどこも満室だったが、なんとか街の真ん中に部屋を確保。ホテルからのメールによれば、早い時間から広場で場所取りをすればパリオが見られるとのことだったが、人でいっぱいの写真に恐れをなし、奮発して指定席を予約してもらった。
2日前から街に滞在。パリオに向けて期待の高まる街の様子を楽しんだ。衣装を着た音楽隊が行進し、それぞれの地域の旗が戸口に飾られ、騎手や馬のお披露目、前夜祭の食事会、子どもたちの応援練習など、とにかく盛り上がっていた。広場には土が入れられて、観客席も用意され、いつもの広場とはまったく違っていた。前日には、トライアルレースもあった。
当日の興奮ぶりはすごかった。広場は競馬用としては狭く、たった3周のレースなど、スタートしたら、すぐに終わってしまう。でも、地域の名誉をかけた戦いは、駆け引き満載。最後にゲートに入る馬が走り出す瞬間がスタートなので、何度もゲートに並んでも、観客のブーイングの中、なんと1時間もスタートしなかった。ひっぱったり、鞭でたたいたり、なんでもありという荒っぽいレースは、当然落馬もある。本番の3周は、一瞬だった。優勝が決まると、人々がコースになだれ込み、大騒ぎ。その熱気は、とにかくすごい。旗を振って歌う声が響く。一日中、パリオ! パリオ! 熱狂の極致!
動物保護の立場で反対する意見もあると聞くが、市民のパリオに賭ける情熱は、衰えないだろう。パリオは文化、パリオはシエーナそのものなのだ。
シエーナといえば、もう、パリオしか思い出せない。あの熱狂の体験で、静かなシエーナの街並みや素晴らしいドオゥモの床装飾の記憶は、すべて吹き飛んでしまった。(写真はすべて2015年7月2日のパリオ風景)