ヘタレ人類学者、沙漠をゆく

小西公大著 大和書房 2024年12月刊

著者は1975年生まれの人類学者で、東京学芸大学の准教授。本書は人類学者(フィールドワーカー)として、インドの社会構造の調査に取り組んだ著者が、インド(特に沙漠地帯)の人々との交流から貴重な体験を得て、しだいに成長し、変容していく記録である。

インドをテーマにした本は数多いが、本書はまた新しいインドの姿を見せてくれる。単に旅人として関わるインドや、企業人や学者、政治家などインド社会の上層部と関わる人の見るインドと、本書で描かれるインドはまったく違う。その理由は、著者が「トライブ」(少数民族)と呼ばれる社会集団の青年と知り合い、彼らの居住するインド西部、パキスタンとの国境地帯のジャイサルメール県の沙漠地帯で生活を共にしたからだ。デリーやムンバイのような大都会とは異なるインドが見えてきて実に興味深い。インドという国は、同質性の高い日本とはあらゆる面で異なっていて、一筋縄ではいかない国だと実感させられる。

特に本書を通読して目からウロコが落ちる思いをしたのは、なぜインド人は御礼を言わないのか、なぜ他人の所有物でも平気で使うのか、その理由がわかったこと。さすがは人類学者だと思う。大変な力作で良い本だと思うが、旅の本というよりは、一人の人類学者の社会観察の記録という性格のほうが強い。全体を通じて、興味深く、面白いエピソードが続出するがやや盛り込みすぎで、もう少し内容を刈り込んで整理したほうが読みやすかったのではないか。とはいえ、新しい知識を得られるという意味で一読に値する本である。