
二村高史著 草思社 2025年3月刊
いわゆる乗り鉄だった著者は、東京大学文学部を卒業後も旅を続け、いくつかの職を経て物書きになる。本書はタイトルのとおり、イタリアの地方をローカル線や路線バスで巡る紀行。1章をシチリアから書き起こし、カラブリア、プーリアと続き、締めの8章はオーストリア国境にある南チロルだ。ローマもフィレンツェもベネチアも出てこない。ひたすら田舎の町や村を訪ね歩く。この点は潔さすら感じるところで、読み始めると「ああ、次はどこを紹介してくれるの」という気分になる。著者は公益財団法人日伊協会常務理事で、イタリア語に堪能で僻地でも個人旅行を十分に楽しんでいる。
フィアット製のディーゼルカーなど、鉄道車両や駅、路線に関するやけに詳しい箇所が散見されるが、車種が分からなくても楽しめるのでそれはそれでよいと思う。終点駅や路線バスの下車地点から目指す村への徒歩行をものともせず、山坂を進む熱意もすごい。ただ、乗り鉄さんの常か「乗っていること」に満足してしまい、ところどころ目的地の街の記述が浅くなってしまっているのが惜しい。せっかくそこまで行ったならもう少し突っ込んで書いて、という感じの箇所がある。それにしても、名前も聞いたことがないような小さな村を訪ねて紹介していることには敬服する。
イタリア愛、鉄道愛に貫かれていてさわやかな読後感を抱くが、一方で他国との関係や歴史的な事実が簡単に済まされている感は否めない。これだけイタリアの地方を書き込むならば、関連する情報をもう少し丁寧に調べてもいい気がするが、贅沢な要求だろうか。情報が少ないイタリアの地方をこまめにまとめている点で得がたい良書。
