白川密成著 新潮社 2023年3月刊
四国八十八ヶ所札所巡りを札所の住職が自ら体験した紀行。1番から88番まですべて歩いて回る「歩き遍路」として巡った記録で、普段はお遍路さんを迎える立場にある住職が立場を変えて遍路となる体験が活き活きと記されている。
四国各地の山岳、海浜、農地など自然の描写も、歩く人間の視線で簡潔に描かれている。もちろん各寺院の境内、周囲、仏像などが丁寧に書かれている。そして、四国に現在も生きている、地域の人々がお遍路さんをさりげなく迎えるたくさんの行為と温かさが素敵に垣間見える。
著者が真言宗の僧侶であるためか、随所に弘法大師空海の著作が引用されている。空海の著作や解説書を直接読むことと違って、旅の空にあってそれらが語られる記述がとても理解しやすい。そして、著者はあえて寺社の沿革を科学的事実よりも、昔からの言い伝えや寺社の縁起をもとに記している。それはそれで、宗教の旅としては良いのではと感じる。
遍路宿、ビジネスホテル、宿坊など宿泊の様子や、料金も記され、旅の記録としても活き活きしている。