歴史的城塞都市カルカソンヌ

フランス 1997年に文化遺産として登録  

中村浩美/文・写真

 フランスのシャトーというと、ロワール川中流にある、優雅で豪華な美しいルネサンス期以降の城館がすぐに思い浮かぶが、南仏ラングドック地方のカルカソンヌは軍事用の城塞だ。しかも町全体が城壁・城郭に囲まれた城塞都市である。オード川から見上げる小高い丘の上に建設された、ラ・シテと呼ばれるこの部分が、1997年に世界遺産に登録された歴史的城塞都市だ。現在モン=サン・ミッシルに次ぐ、フランス第二の観光客数を誇るという。高校生のころに写真で観て以来、この城塞都市にずっと憧れていた。「カルカソンヌを見ずして死ぬことなかれ」とも言われている。その憧れの地を訪れたのは、世界遺産に登録される2年前の1995年5月のことだ。飛行機かTGVでトゥールーズまで行って、そこから特急で約50分、駅から徒歩20分というのが一般的な行程だが、プロヴァンス地方を周遊中だった僕は、ニームから高速道路を片道2時間余り車で走った。

 城塞の歴史は、3、4世紀のローマ時代に遡るという。長い歴史の中でさまざまな闘いの舞台となり、破壊と建設が繰り返された。その結果この城塞都市は、ローマ時代から14世紀までの各時代の軍事建築様式を今に伝える、石造りの歴史書とも美術書ともなっている。特に13世紀にルイ9世とフィリップ3世によって行なわれた補修と増築が、二重の城壁に囲まれた現在の城塞都市の景観を作った。
 ナルボンヌ(ナルボネンシス)門から城塞都市に入る。13世紀に作られた外城壁、ローマ時代からの内城壁、二重の城壁が見事だ。全長3㎞に及ぶという城壁には、計53の塔と外堡が組み込まれている。城壁の塔には、木造のウール(攻撃用の回廊式造作)が一部復元されている。この堅牢な城壁に囲まれて街がある。城下町ならぬ城内町だ。庶民が暮らした、狭い石畳の路地と石造りの家並が残されているのだ。現在では土産物店、ホテル、レストランなどが、中世の街に軒を並べているわけだが、今なお生活の場でもある街だ。時空を飛び越えて中世に迷い込んだ気分になり、兵と庶民が共生していた特異な城塞都市というものの往時が偲ばれた。
 シテの奥へ進むと、12世紀に築城された伯爵城がある。半円形の外郭、空堀、石橋を備えた城塞だ。内部は現在、博物館になっていた。中世の騎士の石棺などが興味深かった。城館から南へ向かうと、サン・ナゼール大聖堂が建っている。11~14世紀に建設された、ロマネスクとゴシック様式が融合したバジリカだ。ステンドグラスが美しい。
 歴史的城塞都市カルカソンヌは、18世紀に危機に見舞われた。人々の関心が薄れ、崩壊の危機に陥り取壊し案もあったという。しかし19世紀のロマン主義で見直され、古代・中世の建造物を残す気運によって救われた。保存に貢献したのが中世建築の修復家として名高いヴィオレ・ル・デュックだ。彼の城壁・塔、城館の修復復元保存工事によって、今僕たちはヨーロッパ一の規模を誇る城塞都市を、この目にできるのだ。写真はすべて1995年5月の撮影。

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中村浩美