ボロブドゥール寺院遺跡群

インドネシア 1991年に文化遺産として登録  

細田尚子/文・写真

 世界最大級の仏教遺跡ボロブドゥール寺院は、大乗仏教を信仰するシャイレンドラ朝によって漆喰や接着剤を使わずに石を交互に組み合わせた石造寺院で、770年頃~820年頃建造された。
 基壇の一辺が123m、高さが42mの巨大な曼荼羅型寺院は1814年に発掘されるまで約千年間、密林に埋もれていた。その原因は諸説ある。仏教寺院完成後に権力を握ったマタラム王国でヒンドゥー教が台頭したから。15世紀以降はイスラム教が定着したから。メラピー火山が噴火するたびに仏教信仰の住民がこの地を離れたから。火山灰の上に草木が茂り密林に覆われたから等。
 1907年からオランダが、1973年からはユネスコが大規模な修復を行い、日本のODAも支援。1991年に世界遺産に登録され、2006年のジャワ島大地震被害の修復も進んでいる。最近は世界各国からの観光客に現地の学生が英語で声をかける『課外授業の場』として活用されている。

 ボロブドゥール寺院の正面は平等院鳳凰堂と同様の東向き。早朝4時半から日の出を見るため懐中電灯をたよりに東側の階段を登ると、頂上の大仏塔に着くころには汗が吹き出した。朝日が昇り、涼しい風に乗ってアザーン(イスラム教の祈り)が聴こえた瞬間「天と地と私がつながった」と感じた。「曼荼羅の形を表している寺院の階段を登れば仏教の三界を疑似体験できる」と聞いていたが、この感覚がそうなのか? 改めて現地ガイドに説明を求めることにした。
 一番下の基壇は、煩悩のままに生きる「欲界」を表す。特に「隠れた基壇」160面のうち修復した4面の浮彫りは興味深い。男性の享楽である「飲む、打つ、買う、麻薬、盗み」や女性の享楽である「うわさ話」の彫刻があった。悪因悪果が一目瞭然で身につまされる。
 中央の5層構造の方壇は、物質世界から離れられない「色界」を表す。時計周りにお釈迦様の前世や仏教の様々な説話の浮彫りが並ぶ。
 大仏塔に近い上層の3層構造の円壇は、物質世界を超越した「無色界」を表し、72の釣鐘型の小仏塔が規則正しく並び、目透かし格子から仏座像を拝んだ。格子の形にも意味がある。正方形は精神が安定した賢者、菱形は精神が不安定な俗界の人を表す。中央の大仏塔に格子窓がないのは大乗仏教の真髄が「空」を表現している。
 煩悩だらけの私も「本質(マンダ)を得る(ラ)」という意味を知り、今の自分を見つめ直す機会を得ることができた。
(写真はすべて2015年1月撮影)

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