スイス・アルプスのユングフラウとアレッチ

スイス 2001年に自然遺産として登録、2007年に追加登録 

山田恒一郎/文・写真

 ヨーロッパで最初に春がやって来る場所は、どこだろう? 南イタリアかスペインのアンダルシア地方辺りになりそうだが、違う。意外にも、ヨーロッパには4000m級の峰々が続くアルプスの山麓に一足早い春が訪れる。冬至から1か月もすると、ヨーロッパでは日照時間がグンと長くなり、海抜1000mを超える上空は、快晴、無風。地表を覆う雲海の上にニョキニョキと突き出た白銀の高峰目掛けて、強い太陽光が燦々と照りつける。寒く暗くどんよりした下界を抜け出し、輝く太陽、紺青の高空、そして雄大な白銀の山岳景色に惹かれて、アルピニスト、スキーヤー、スノー・ハイカーと共に、大勢のツーリストが世界中からアルプスの山麓にやって来る。世界自然遺産登録の「スイス・アルプスのユングフラウとアレッチ」地域は、この時期、地上の春を待ち切れない人たちで賑わう山岳観光地の中でも、一、二を争う人気リゾート。高齢者も多い。私も太陽を浴び、白銀の世界に遊ぶ一人になる。かつて、少数のアルピニストしか知ることのなかったアルプスの高所まで、歯車式のスイス登山鉄道が急勾配を這い上がって行く。ロープウェイ、ケーブルカー、リフトに乗れば、さらに多くの高所高峰に四季を問わず誰でも到達出来る。

 824平方㎞という広大な「ユングフラウ-アレッチ」地域で、目玉となる箇所は、ベルナー・オーバーラント三山のアイガー(3970m)、メンヒ(4107m)、ユングフラウ(4158m)。そして、ユーラシア西大陸で最大・最長のアレッチ氷河。オーバーラントの三大名峰に対峙する格好の場所は、シルトホルン(2971m)山頂の展望台。映画「007」にも出てくるシルトホルンの頂上から見晴るかすスイス・アルプスの大パノラマには、ただただ圧倒されて言葉も出ない。
 巨大なアレッチ氷河に出遭うのは、登山鉄道の終着駅、ユングフラウヨッホ(3454m、ヨッホは鞍部という意)のスフィンクス展望台。アレッチ氷河の上流域をほぼ真上から見下ろすことができる。全長24㎞に及ぶ大氷河の全体を見届けるには、ベルナー・オーバーラント地方の裏側(北側)に連座する高山の一つ、エッギスホルンの頂上に立つとよい。ユングラウヨッホから大きな弧を描いて下って来る巨大な氷河の流れに身も心も奮い立つ。
 雪が溶けて地表から緑草が丈を伸ばし、高山植物が咲き揃う夏季の「ユングフラウ-アレッチ」は、さらに多くのツーリストを迎え入れて賑わう。アイガー山麓、フィルスト台地、メンリッヒェン高地、クライネシャイデックなどの景勝道には、ハイカーたちの靴音が絶えない。「ユングフラウ-アレッチ」地域は、自然好きの人たちのパラダイスだ。(写真は2008~2009年に撮影)

この記事を書いた人

山田恒一郎

山田恒一郎

1948年東京都生まれ。マサチューセツ工科大学大学院(交通経済学修士)。
国土交通省に勤務、国内/国際両業務を歴任。退職後2004年から2019年までパリに移住。ヨーロッパ、中東、北アフリカを対象に旅行ジャーナリストとして活動。パリ・マラソン、メドック・ワイン・マラソンの連続10回フィニッシャー。フランスのトップシェフとの交流を深める。現在、(有)山田総合企画取締役。
主な著書に
「世界のウォーターフロント」(沖縄総合事務局監修)
「English Gardens and Flowers」(大修館書店、英語教育誌12回連載)
「世界紀行」(潮出版社、潮誌連載)など多数。