小牟田哲彦著 育鵬社 2023年12月刊
著者は1975年生まれ。日本および東アジアの近現代交通史や鉄道に関する研究・文芸活動を専門に行なっている。本書は中国周辺、インド周辺、東欧、中東、アフリカといった、どちらかというと辺境ともいえるエリアの国際列車の実情を描いた鉄道紀行。
穏やかなユーロスター以外は、題名通り緊迫感漂う国境通過を中心に係官の対応、鉄道員や乗客、沿線住民の様子などなかなかスリリングな旅である。巻頭のカラー写真以外、本文中には地図と自作の時刻表を掲載するのみで、写真は一切ない。紀行文の行間には写真を載せない主義だそうだが、それだけ文章には自信があるのだろう。
評者にとっては、おそらく、体力的な問題もあって今後も旅することはないであろう列車がほとんどだが、読んでいると一緒に旅した気分を味わえて、行った気になってしまうのは、それだけ文章の質が高いことの証明でもあろう。第一級の紀行文として高く評価したい。