イエメン 1986年に文化遺産として登録、2015年に危機遺産に
小野喜志雄/文・写真
サナアはアラビア半島の南にあるイエメンという国の首都である。標高1000メートルほどのところにあり、暑さは感じない。交通の要衝にあり、交易によって栄えた地域である。シバの女王がいたことでも知られている。イエメン国に世界遺産の数は多くはないものの、圧倒されるような渓谷や尾根伝いにある石造の家並みを遠くから眺めているだけで好奇心でいっぱいになる。今は外務省の海外安全情報(危険情報)のレベル4(退避勧告)となっており、普通の人は近づけない。しかし、心から世界遺産が破壊されずに残っていて欲しいと願っている。
イエメンに足を踏み入れるといきなりアラビアンナイトの世界が目の前に浮かび上がってくる。サナアの街に入ると白い服を着て短刀を腰に差している男性が歩いているのをよく見かける。成人した男性の正装だそうだ。若くてすんなりした人がそのような格好をして歩いているのを見ると格好いい。女性は黒い服で身を包んでいる。目はとても神秘的で魅力的だ。吸い込まれる感じがする。女性は黒い服であるヒジャブを身にまとっていなければならないが、袖口などに刺繍が施されたりしていて女性らしさや個性を出したりしている。そうした刺繍で個人を識別することもできるらしい。
イエメンの家は石造りである。子どもが結婚して一緒に住むことになると、上に石を積んで階を継ぎ足していく。一番上の階が日当たりも良く、女性たちが昼間集まって談笑したり、手作業をしたりする場所である。子育てもそこで行うことになるのであろう。家の中では女性はヘジャブを着用する必要はなく、意外と派手な服装をしているらしい。
サナアの旧市街のホテルに入ると、最上階に絨毯が敷き詰められたレストランやカフェがある。ソファーで寝転んでコーヒーを飲んでみたくなる。またアラブの街に水パイプがとてもよく似合う。身体に良いかどうかは別にして、男性が集まって水パイプを囲みながら話をしている姿もいかにもアラブの世界らしさを感じさせる。そして、建物の間にある路地にはたくさんの露店が並んでいる。昔ながらのマーケットである。果物や野菜、香辛料、その他様々なものが取引きされている。短刀も売られている。観光用だとは思うが。アラビアンナイトで出てくるような魔法のランプなども見つけることができるかもしれない。そう、サナアはアラビアンナイトの世界をそのまま伝える街である。