サーンチーの仏教建築物群

インド 1989年に文化遺産として登録  

小野喜志雄/文・写真

インドには多くの世界遺産がある。その中に仏教と関連した文化遺産が幾つかある。アジャンタ石窟群、エローラ石窟群、ブッダガヤの大菩薩寺、サーンチーの仏教建造物群などであるが、後にヒンズー教が入ってきたりしていて結構複雑である。

 サーンチーはインド内陸部のマディアプラデッシュ州にあり、州都ボパールから1時間ほど自動車で走ったところにある。神谷氏(http://www.kamit.jp/02_sanchi/sanchi.htm )によると、紀元前3世紀ごろにアショカ王のころに作られたお釈迦様の舎利容器を納めたストゥーパである。発見された1818年ごろは荒野と化していたようであるが、今は整備された小高い丘の上にあり、寺院趾とともに文化遺産に登録されている。

 緑の小高い丘の上にストゥーパがあり、その上に真っ青な空が広がっていて、月が静かに動いている。それがサンチーのイメージである。

 インドの街の中は喧騒でいっぱいであるが、このサーンチーは別世界である。静けさに包まれている感じがする。このインドから0が発明され、世界の数学が大きく発展する要素を作ったように、この地には新しいものを作り出していく、または発明していく要素があるように感じられる。

 サーンチーのストゥーパのある丘から下におりているとガサゴソと音がした。何かと思って見てみると、孔雀だった。なぜ孔雀がいたのか、よく分からないが、場所の雰囲気とも仏教ともとても良く合っていた。おそらく野生の孔雀なのだろう。大きな体で動いていた。

 ストゥーパの周りにあるトラナと呼ばれる門にはブッダの伝説や説話などの彫刻が彫られている。圧巻である。一つ一つ丁寧に彫られていて見る者を飽きさせない。彫刻の数も膨大な数に及んでおり、丁寧に見ていると全てを見終わるまでに数ヶ月を要するかもしれないと思ってしまう。その彫刻を丁寧にスケッチしている人がいた。時間に追われてあくせくと生活している我々に対して強烈な自己主張をしている。すべてはなるようにしかならない。因果応報。諸行無常。だから、いつも同じように整備していかなければならない。

 ストゥーパのはるか上空を月が、半月ではあったが、気楽に動いていく。月は静かであるが、人々の生活に必要な大きな存在感がある。月は潮の満ち引きなど意外なところで影響力を発揮している。また物事や季節の動きを判断するのに重要な役割がありそうだし、月があることで安定した生活を送ることができている。月とストゥーパが同じ直線上にあることで何かの意味があるのではないかと思ってみたくなる。サーンチーは月の動きに合わせて静かに過ぎていく。

 悠久のインドを思わせる世界遺産である。

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