ポン・デュ・ガール<ローマの水道橋>

フランス 1985年に文化遺産として登録、2007年に緩衝地域を拡張して登録

中村浩美/文・写真

 南仏ラングドック地方にあるポン・デュ・ガールは、古代ローマの水道橋だ。北のユゼスの泉からニームへ、長さ50㎞の導水路を建設し、1㎞あたり34㎝という勾配をつけて上水を引いた。発展するニームの水需要の増大に対応した建設だった。その導水路がガール川の谷を渡る地点に、ポン・デュ・ガールがある。導水路の最も華麗な部分とされている。ローマ人の土木技術の粋を示す遺跡だ。紀元前19年に完成し、現代まで残っているのが驚きだ(堆積物のため9世紀に使用不能になった)。「人類の創造的才能を表現する傑作」という基準を見事に満たし、1985年に世界遺産に登録された。

 学生生活を京都で送った僕は、よく南禅寺を訪れた。山門も庭も素晴らしいが、特に好きだったのが境内の水路閣の佇まいだ。琵琶湖疎水が流れる、レンガ積みのアーチ型水路である。夏の日、アーチの上を流れる水路に脚を浸し、友と語らったことなど思い出す(今は立ち入り禁止かな)。水路閣はローマの水道橋を模した設計だ。いつか本物を観たいものだと、当時から思っていた。それから30年近くたって、やっとポン・デュ・ガールを訪れることができた。1995年のことだった。僕はニームから車で行ったが、ニームからもアヴィニョンからも、バスで45分ほどの距離だ。駐車場完備、博物館、カフェ・レストランもある。
 石造りのアーチの列を3層に積み重ねた姿が、雄大で美しい。石積みの黄褐色が、ガール川の水色と両岸の緑とマッチしている。6t以上のものもあるという巨大な切石を組んで、モルタルなしの空積みで建設している。
 導水路がある最上段には35個のアーチが並ぶ。長さ275m、幅3m、水面からの高さ49m、川底の橋の基礎部分からの高さは52m(最上段自体の高さは7m)、流水量は1日約2万立方メートルだったという。これを支える中段には11個のアーチが並び、長さ242m、幅4m、高さ20m。下段は人や馬が通る橋を兼ねており、6個のアーチで構成され、長さは142m、幅6m、高さ22m。
 下段の橋から見上げると、中段の石積みの壁面とアーチの内側の所々に、四角い突起がある。木材で足場や迫持を組む際に使ったものだというが、完成後に削って整形せず、そのまま残した理由は不明だという。ポン・デュ・ガールへの旅は、故・齋藤茂太、美智子ご夫妻とご一緒だった。齋藤先生にモデルになっていただいて、中段の石積みと突起を見上げる姿を写真に撮った。
 写真はすべて1995年5月の撮影。

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中村浩美