葵祭と下鴨神社の御蔭祭(古都京都の文化財)

京都府京都市 1994年に文化遺産として登録  

高橋知子/文・写真

 葵祭とは、京都三大祭の一つで、雅なその行列の雰囲気から「平安時代のお祭り?」と思われがちですが、その歴史は想像以上に古いものです。
 毎年5月15日に行われるこのお祭りの正式名称は賀茂祭(かもさい)と言います。賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)と賀茂別雷神社(かもわけいかずちじんじゃ)の例祭で、平安以来、国家的な行事として開催されてきました。平安中期には、「祭」といえば、この「葵祭」のことをさしたといいます。
 さて、その葵祭の起源ですが、なんと567年と伝えられています。風水害による不作が続き、賀茂の大神を敬う伊吉若日子(いきわかひこ)が占うと、賀茂の神々の祟(たた)りであるとされ、そこで、天皇から勅命が下り、若日子が4月吉日に祭礼を行うと、風雨は鎮まり、豊作になったといわれています。

 祭りは819年には国家的行事になりました。しかし、1467年から77年まで続いた「応仁の乱で」のため、一時、中止となり、その後1694年にようやく再開。当初「賀茂祭」と呼ばれていた祭は、このころから「葵祭」と呼ばれるようになったともいわれています。
 ところで、2011年3月に起きた東日本大震災。その年5月の葵祭を行うべきかどうか、色々議論がありました。東京の三社祭などは早々に中止を決定しましたが、京都の葵祭は例年通り行うことを決定しました。
 そういえば、そのころ、神社本庁は「神事は世の平和や安寧を祈る大切な儀式。復興を祈って執り行って欲しい」と呼び掛けていましたね。国家の安寧を祈るために、粛々と祭を行うこと―それこそが、祭の存在意義なのでしょう。だからこそ、中止するということなく、例年通り執り行い、その中で、犠牲者の鎮魂と被災者の皆さんの復興、幸せを祈って執り行われた葵祭。

 今年も粛々と行われます。5月15日の葵祭につい注目しがちですが、私が是非オススメしたいのは、下鴨神社で12日に行われる葵祭の前の祭、前儀である「御蔭祭(みかげまつり)」。
 新緑の下、美しい衣装をまとった舞人(まいびと)による「東游(あずまあそび)」の舞を目にしたら、きっと一瞬で雅な京都の独特の世界観の虜になる事間違いなしです。
 是非、葵祭の前後に行われる雅なお祭にもご注目下さい。

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