中野洋一/文・写真
アイスランド 2004年に文化遺産として登録
アイスランドは豪快な観光資源の宝庫である。ユーラシア・プレートと北米プレートとが地表で接し、互いに引き合う両プレートの合間に生じた裂け目を『ギャウ』と称す。この裂け目が世界最大規模で広がる「シンクヴェトリル国立公園」は、2004年に世界遺産登録された。溶岩の崖に沿って公園内を散策しながら、創世紀の地殻変動に思いを馳せる。西暦930年には音響効果の高い壁に囲まれて、当地で世界最古の議会が開催されたという。ギャウには氷河から流れて来た視界150mの透明な水が湛えられ、極寒の地のダイビング・スポットともなっている。
首都レイキャビックの南西40㎞、活火山の島の電力は地熱発電で支えられており、溶岩台地の中に『ブルー・ラグーン』と称す露天温泉施設も設営された(1987年)。コンピューター制御で湯音約40℃に保たれており、皮膚病治療に効果があるそうで、欧米各国から多くの湯治客が訪れている。近くに10分間隔で熱湯を噴き出す『ゲイシール間欠泉』という名所も控えている。
最大の観光資源は、何といってもオーロラだ。カナダや北欧へのオーロラ・ツアーは零下20℃の世界であり、業者が貸与する専用の防寒具が必須だが、3月のアイスランドは気温がせいぜいマイナス1~2℃で、日本での冬支度で間に合った。訪れた2013年の春、3連泊の最終日に「オーロラ爆発」に遭遇する幸運に恵まれた。
5段階のオーロラ評価区分によれば、初日のバス・ツアーは段階3。2日目は曇天のためギブ・アップ。最終日は未練たっぷりにホテルのテラスから夜空を観察した。すると午後8時過ぎ、怪しげな雲の動きに気が付いた。添乗員の機転でホテルの屋上に誘導されて見上げると、一斉に歓声が上がった。天空で明らかに異変が生じていた。北の空はオーロラのダンスだ。ふと振り返ると、東南の空に新たなカーテンが出現し、こちらの帯はもっと濃い緑の光彩を放っている。そのとき何気なく見上げた頭上で繰り広げられた現象は、まさに奇跡の光景だった。天空の一点から光が四方にスパークし、周囲を取り囲む光のカーテンがじわじわと拡大しはじめたのだ。これこそがオーロラ爆発だった。
地球は北極と南極を結ぶ地磁波によって覆われている。太陽が放出したコロナ質量波は数日かけて地球に達し、その太陽風が地磁波に衝突したときに生じるのがオーロラ現象だ。大気やオゾン層だけでなく、地球は地磁波によっても守られているわけだ。オーロラが見えるということは、地球という惑星の生命が太陽系の中で存続し得る条件たる磁場を形成していることの証しなのだ。そのことをオーロラは我々に優しく教えてくれる。