中村 浩美 Hiromi Nakamura

<2020年 JAN.~JUN.>

 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大で、2月以降の委員会、会議、会合、パーティーなど、すべて中止か延期になり、4月には緊急事態宣言が出て、映画館、劇場も美術館も閉館となり、外出自粛生活が続いた。仕事もない日常のため、今期の活動は低調にならざるを得なかった。ただし自由時間だけは豊富だったので、今まで手が付けられなかった資料の洋書を積み上げて、航空史の人々の勉強ができたのは自粛生活の効用だろう。その勉強を基に原稿も書けたのは収穫(発表はまだまだ先だけれど)。

WRITING & INTERVIEW

 昨年書いた『AVIATORS 追悼録私抄・4』、「ダリル・グリーネマイヤー」(Darryl Greenamyer 1938~2018)の小伝のPart 2が、NPO・HASMの会報『羽田の青い空』第94号に掲載された。思い入れの強い執筆のため、計70枚の大作になってしまい、2回連載となった。このシリーズは、僕が実際に出会って交誼のあったスーパー・パイロットに捧げる、個人的な追悼録だ。

『ダリル・グリーネマイヤー(Part 2)』掲載頁(全12頁の一部)

 ダリル・グリーネマイヤーとの想い出は、いつかは書かねばならないと思っていたテーマだった。執筆を決心させたのは、旧友の渡邉登さんから贈られたRB-104“Red Baron”のプラモデルだった。RB-104は、ダリルが世界速度記録を樹立した機体。渡邉氏はモデラー界の巨匠だ。ハセガワ製1/48キットを基に、形状を補正し、カラーリングの細部まで正確に復元した、オリジナル・モデルになっている。このモデルを眺めながら執筆した原稿だった。
 ETT(フォーラム・エネルギーを考える)のHP、「私はこう思う!」のコーナーに『電気料金をチェックして考えたこと』を執筆。電気料金の受益者負担についての一考察だ。
 ユニークな雑誌『昭和40年男』と姉妹誌の『昭和50年男』(クレタパブリッシング・刊)には、ロング・インタビューで何回か登場している。その『昭和40年男』の「総集編」が6月号増刊として発行された。テーマは「昭和が描いた俺たちの未来」というのもで、僕が登場した「コンコルドの理想と現実」と「日本中が熱狂したハレー彗星」の2本が再録された。

EVENT

第4回 羽田航空博物館展

 僕が理事長をしているNPO・HASM(羽田航空宇宙科学館推進会議)主催のイベント『第4回 羽田航空博物館展』が、1月31日~2月4日に羽田図書館で開催された。写真展『私の羽田アルバム』展(スぺシャル塗装機大集合・2019年7月開催)の再展示、斎藤茂太エアラインバッグ・コレクション、電動ヒコーキ操縦体験、スペシャル塗装機モデル展示の他、HASMメンバーの秘蔵のコレクションなどが展示内容だった。僕は昨年に続いて、航空関連の「初日カバー」(First Issue Day Cover)コレクションを出展。昨年よりも展示パネルが1枚増えて、バラエティに富んだ展示ができたと自賛している。

『僕の交書録』<BOOKS MY BEST 2020 JAN.~JUN.>

 2020年上半期の交書録は、新刊が35冊、再読が3冊、贈呈いただいたのが4冊で、計42冊と、外出自粛中のわりには読書量は増えなかった。洋書と贈呈本を除いた新刊の中で印象的なベストは以下の通り。
テンプル騎士団や中世修道制の研究は、僕の趣味のひとつ。今期の収穫は、フランス史を背景にした作品で知られる佐藤賢一さんの『テンプル騎士団』。篠田雄次郎先生の『テンプル騎士団』は、1976年に出た『聖堂騎士団』(中公新書)の改題・文庫版だ。新書版は勿論持っているし、特に改訂もないようなのだけれど、やはり買ってしまった。

<NON FICTION>

『テンプル騎士団』佐藤賢一(集英社新書)
『テンプル騎士団』篠田雄次郎(講談社学術文庫)

 フィクションでは、海外ミステリのオンパレード。ご贔屓作家マイクル・コナリーとキャロル・オコンネルの新刊に満足。全作品を読んでいるけれど、外れがない。今期マイブームになったのが、カリン・スローターだ。去年ウィル・トレント・シリーズの第7作『ブラック&ホワイト』で注目したのだけれど、今期は完全にハマった。第1作の『三連の殺意』から最新刊の第9作『破滅のループ』まで、第3作と4作目を除いて今期に読破。間を埋める3作、4作目を読むのは次期の楽しみ。シリーズで鉄板なのは、J・D・ロブのイヴ&ローク・シリーズ。最新刊の『汚れし絆のゲーム』が第48作目。まだ8冊しか読んでいないので、残りが40巻もあるので当分楽しめる。初見参で注目は、イタリア作家のマウリツィオ・デ・ジョバンニと、米作家のダン・フェスパーマン。次作以降の翻訳が待たれるところ。『黒い瞳のブロンド』と『ただの眠りを』は、共にレイモンド・チャンドラーが創造した探偵フィリップ・マーロウの、その後を描いているのがユニーク。しかもブラックはアイルランドの、オズボーンは英国の作家だ。これで本場アメリカのロバート・B・パーカーの先行2作と合わせて、その後のマーロウ物は4作になった。オズボーンが描いたマーロウは何と72歳だ!

 <FICTION>

『罪人のカルマ』カリン・スローター(ハーパーBOOKS)
『ただの眠りを』ローレンス・オズボーン(ハヤカワ・ミステリ)
『レイトショー』(上)(下)マイクル・コナリー(講談社文庫)
『黒い瞳のブロンド』ベンジャミン・ブラック(ハヤカワ・ミステリ)
『修道女の薔薇』キャロル・オコンネル(創元推理文庫)
『孤独な崇拝者』J.D.ロブ(ヴィレッジブックス)
『凍てつく夜の戯曲J.D.ロブ(ヴィレッジブックス)
『汚れし絆のゲーム』J.D.ロブ(ヴィレッジブックス)
『開かれた瞳孔』カリン・スローター(ハーパーBOOKS)
『償いのリミット』カリン・スローター(ハーパーBOOKS)
『P分署捜査班 集結』マウリツィオ・デ・ジョバンニ(創元推理文庫)
『三連の殺意』カリン・スローター(ハーパーBOOKS)
『破滅のループ』カリン・スローター(ハーパーBOOKS)
『隠れ家の女』ダン・フェスパーマン(集英社文庫)

『僕のシネマテーク』 <CINEMAS MY BEST 2020 JAN.~JUN.>

 今期の映画鑑賞は29本。そのうちVOD鑑賞が4本だった。緊急事態宣言による休業要請で、映画館が閉館になってしまったため、映画館での鑑賞のほとんどが1月~3月だった。例年に比べて、はるかに低調だったのは仕方のないところ。総数が少ないわりには、印象に残る秀作が多かった。そんな次第で以下の20本がランク入り。因みに映画館休業前に最後に観たのが『レ・ミゼラブル』、上映再開後に最初に観たのが『ANNA アナ』だった。ベスト・ファイブ選出は難しいのだけれど、『フォード vs フェラーリ』『ハスラーズ』『ジュディ 虹の彼方に』『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』『コリーニ事件』といったところ。番外が『女と男のいる舗道』だ。「ミシェル・ルグランとヌーヴェルヴァーグの監督たち」で特別上映された、ジャン=リュック・ゴダールの傑作のデジタル・リマスター版。夜遅く、1回だけの上映のためYEBISU GARDEN CINEMAまで出掛けた。僕がこの作品を初めて観たのは1963年、高校3年生の時だったので、懐かしかった。主演のアンナ・カリーナは、当時の僕のミューズだったのだ。僕の高校時代のベスト・スリーは、『ウエスト・サイド物語』『バーバレラ』『女と男のいる舗道』だった。

『フォード vs フェラーリ』(FORD vs FERRARI)ジェームズ・マンゴールド監督
『ジョジョ・ラビット』(JOJO RABBIT)タイカ・ワイティティ監督
『リチャード・ジュエル』(RICHARD JEWELL)クリント・イーストウッド監督
『男と女 人生最良の日々』(Les plus belles années d‛une vie)クロード・ルルーシュ監督
『ハスラーズ』(HUSTLERS)ローリーン・スカファリア監督
『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(Les traducteurs)レジス・ロワンサル監督
『グッドライアー 偽りのゲーム』(The Good Liar)ビル・コンドン監督
『スキャンダル』(BOMBSHELL)ジェイ・ローチ監督
『女と男のいる舗道』(VIVRE SA VIE)ジャン=リュック・ゴダール監督
『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』(ONE LAST DEAL)クラウス・ハロ監督
『野性の呼び声』(The Call of the Wild)クリス・サンダース監督
『ジュディ 虹の彼方に』(JUDY)ルパート・グールド監督

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』(The Death and Life of John F. Donovan)グザヴィエ・ドラン監督
『黒い司法 0%からの奇跡』(JUST MERCY)デスティン・ダニエル・クレットン監督
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』(BIRDS OF PREY and the Fantabulous of One HARLEY QUINN)キャシー・ヤン監督
『レ・ミゼラブル』(Les Misérables)ラジ・リ監督
『ANNA アナ』(ANNA)リュック・ベッソン監督
『星屑の町』杉山泰一監督
『コリーニ事件』(Der Fall Collini) マルコ・クロイツパイントナー監督

<2020年 JUL.~DEC.>

WRITING

 コロナ禍でSTAY HOMEが続いた。時間だけはふんだんにあったので、長年温めていた題材の資料をじっくり調べ直し、ノンフィクションを執筆した。女流飛行家フローレンス・クリンゲンスミスの小伝で、『ある女流飛行家の生と死<忘れられたパイオニア>』と題して、HASM(羽田航空宇宙科学館推進会議)の会報「羽田の青い空」第96号に発表した。原稿35枚、全9頁の作品になった。

『ある女流飛行家の生と死<忘れられたパイオニア>』の掲載頁。全9頁の一部

 稀代のイラストレーター・漫画家の下田信夫さんの遺作集『Nobさんの航空縮尺イラストグラフィティ』の第3弾「エトセトラ編」に、「飛行機王国Nobランド」を寄稿。「航空ジャーナル」誌連載時のあれこれを、短く綴ったもので、改めてのNobさんへの追悼文でもある。
 ETT(フォーラム・エネルギーを考える)のホームページ「私はこう思う!」に、エッセイ「太陽光発電の環境問題」を執筆。日照に恵まれた山梨県からの、太陽光発電設備設置に関する課題を提起したもの。

EVENT

<第5回私の羽田アルバム展>

 僕が理事長を務めるHASM(羽田航空宇宙科学館推進会議)による、恒例の羽田航空博物館プロジェクト写真展『第5回私の羽田アルバム展』が、7月19日~25日に、有楽町駅前の東京交通会館シルバーサロンBで、開催された。第5回を迎えたこの写真展の今年のテーマは、「ようこそ羽田へ~世界の翼がやって来る~」。コロナ禍がなければ、東京オリンピックが開催されていたはずで、それに合わせて世界の翼を迎えてきた羽田空港の今昔を紹介しようという企画だった。オリンピック関連の羽田飛来機はなかったものの、STAY HOMEにもかかわらず多くの皆さんが写真展を訪れてくれた。

LECTURE

 東京都板橋区が、『いたばし未来の発明王コンテスト』を開催した。板橋区の小中学生を対象に、未来を楽しくするアイデアを募集したもの。書類選考を通過した優秀アイデア9組の皆さんのために、最終審査(公開プレゼンテーション、2021年2月28日)に向けての、アイデア・ブラッシュアップ講座が、12月19日、20日の両日開催された。この講座の講師を依頼され、アイデアのブラッシュアップの方法、プレゼンテーションの留意点などをレクチュア。小中学生のユニークなアイデアには刺激を受けたし、アドバイスをしたり意見交換をしたりで、楽しい時間を過ごすことが出来た。

『僕の交書録』 <BOOKS MY BEST 2020 JUL.~DEC.>

 2020年7月~12月期の読書は、新刊が50冊、贈呈いただいたのが1冊の計51冊。STAY HOMEで有り余る時間は、もっぱら海外ミステリーで明け暮れた。今期印象に残った、面白い作品群は以下の通り。前期からのマイブームのカリン・スローターには、どっぷりはまった。未読の旧作から最新作まで、出版されたすべてを読破、早くも次作が待ち遠しい。ご贔屓のマイクル・コナリーをはじめ、アメリカ作家の作品が多かったが、新刊が出たら必ず手に取るデンマーク、スウェ―デン、アイルランド、ノルウエーのおなじみの作家たちにも秀作が多かった。ジョン・グリシャムの『「グレート・ギャツビー」を追え』は、弁護士、法廷が出てこないグリシャム作品として異色。しかも村上春樹さんの訳だから、読まないという選択肢はない。異色と言えば、ローラン・ビネの『言語の七番目の機能』。処女作『HHhH―プラハ、1942年』という奇妙なタイトルの作品で、鮮烈なデビューを飾ったビネの第2作。これまたタイトルも内容も奇妙な味わいの作品。ロシアの言語学者ロマン・ヤコブソンが唱えた「言語の六つの機能」を下敷きにしているのだけれど、もともと七番目の機能は存在しないはず。その幻の文書が、暗殺(?)された哲学者・記号学者のロラン・バルトから奪われた。それを記号学者の大学講師と情報局付きの警視が追うというミステリー仕立て。ビネの作品は現実と虚構(歴史的事実とフィクション)を上手く混交させているのが特徴。この作品でも設定は虚構だけれど、登場人物は実在の人物が目白押しだ。ミシェル・フーコー、ウンベルト・エーコ、レジス・ドブレ、ジャック・アタリ、J・P・サルトル、マルグリット・デュラス、フランソワ・ミッテラン、ジスカール・デスタン、ミケランジェロ・アントニオーニ、モニカ・ヴィッティなどなど知識人、政治家、芸能人などがふんだんに実名で登場する。学術論争、芸術論争、政治論争が饒舌に展開し、七番目の機能を求めて探索が続く。圧倒されました!

<FICTION>

『砕かれた少女』カリン・スローター(マグノリアブックス)
『特捜部Q アサドの祈り』ユッシ・エーズラ・オールスン(ハヤカワ・ミステリ)
『ハンティング』(上・下)カリン・スローター(ハーパーBOOKS)
『サイレント』(上・下)カリン・スローター(ハーパーBOOKS)
『少年と犬』 馳星周(文藝春秋)
『時計仕掛けの歪んだ罠』アルネ・ダール(小学館文庫)
『汚名』(上・下)マイクル・コナリー(講談社文庫)
『その手を離すのは、私』クレア・マッキントッシュ(小学館文庫)
『三分間の空隙』(上・下)アンデシュ・ルースルンド & ベリエ・ヘルストレム(ハヤカワ・ミステリ文庫)
『グッド・ドーター』(上・下)カリン・スローター(ハーパーBOOKS)
『たとえ天が堕ちようとも』アレン・エスケンス(創元推理文庫)
『老いた男』 トマス・ペリー(ハヤカワ文庫NV)
『苦悩する男』(上・下)へニング・マンケル(創元推理文庫)
『ストーン・サークルの殺人』M・W・クレイヴン(ハヤカワ・ミステリ文庫)
『言語の七番目の機能』ローラン・ビネ(東京創元社)
『壊れた世界の者たちよ』ドン・ウィンズロウ(ハーパーBOOKS)
『ガン・ストリート・ガール』エイドリアン・マッキンティ(ハヤカワ・ミステリ文庫)
『警官の街』 カリン・スローター(マグノリアブックス)
『素晴らしき世界』(上・下)マイクル・コナリー(講談社文庫)
『森の中に埋めた』ネレ・ノイハウス(創元推理文庫)
『悪夢の街ダラスへ イヴ&ローク34』J.D.ロブ (ヴィレッジブックス)
『ファントム 亡霊の罠』(上・下)ジョー・ネスボ(集英社文庫)
『地の告発』アン・クリーヴス (創元推理文庫)
『「グレート・ギャツビー」を追え』ジョン・グリシャム (中央公論新社)
『ランナウェイ』ハーラン・コーベン (小学館文庫)

『僕のシネマテーク』 <CINEMAS MY BEST 2020 JUL.~DEC.>

 2020年の映画界は、コロナ禍の影響でハリウッドの新作の公開延期もあって、全体的には低調。映画館の休館や客席制限もあった。そしてSTAY HOMEだから、僕のシネマテークも低調にならざるを得なかった。2020年7月~12月期の映画館での鑑賞は、わずかに15本。ON DEMANDやテレビ放映はかなりの数観たけれど、これらはカウントしない。毎週土曜日には、BSテレ東でデジタル修復版の『男はつらいよ』シリーズを欠かさず観た(21年になっても観続けている)けれど、これもカウントしない。全体で15本と少なかったけれど、MY BESTに掲げられる作品が以下の10本あったのは収穫。2020年全体でも、計44本と、例年に比べきわめて少なかったのは残念。今期のBESTは、やはり“女優で観た”ナタリー・ポートマンの『ポップスター』だろうか。

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(A Rainy Day in New York)ウディ・アレン監督
『ポップスター POP STAR』(VOX LUX)ブラディ・コ―ベット監督
『真夏の夜のジャズ』(JAZZ ON A SUMMER’S DAY)バート・スターン監督
『ファヒム パリが見た奇跡』(Fahim) ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴェル監督
『メイキング・オブ・モータウン』(HITSVILLE:The Making of MOTOWN)ベンジャミン・ターナー&ゲイブ・ターナー監督
『ストックホルム・ケース』(Stockholm)ロバート・バドロー監督
『ヒトラーに盗られたうさぎ』(When Hitler Stole Pink Rabbit)カロリーヌ・リンク監督
『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい』(Edmond) アレクシス・ミシャリク監督
『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』(HELMUT NEWTON-THE BAD AND THE BEAUTIFUL)ゲロ・フォン・ベーム監督
『ニューヨーク 親切なロシア料理店』(The Kindness of Strangers)ロネ・シェルフィグ監督

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